モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 モノトーン編下1-2

1-2

 

  ☆  ☆  ☆

 

「何を」

 

2人ほど、菜月を睨んでこちらに踏み出そうとするやつらがいた。

 

「うん。俺も菜月に一票かな」

 

成見が菜月を胸に抱きしめ、男たちの視線から隠す。

 

「葬式はちゃんと行くよ? 世間体とかそういうのは大事だからね。だけどそこに別れを惜しむ感情が付いてくると思ったら大間違いだ。いい加減自覚してほしいところだよ。俺たちにとって君たちはその程度のものなんだって」

 

みるみる顔を青くする連中に、成見は容赦なく畳みかける。

 

「中学が同じってだけで仲間意識をもたれるなんて、こっちからするとたまったもんじゃないんだよ。憧れて慕えば春樹も同じだけの友情を返してくれるとでも思ったのかな? 残念だけど、君たちみたいなのが千人集まったところで、結衣ひとりの存在価値ほうが遥かに重いんだよ。俺たちにとってはね」

「成見の言うとおりだが、俺たちも反省はすべきなんだろうな。こういうことは、自分の後ろめたさに関係なく、もっと早く言ってやるべきだった」

 

反省はあっても、それは自分自身に対するものなので謝罪はない。

 

「次があるなら俺が蹴り飛ばす」

 

洋人のひとことがとどめとなり、血の気が失せた連中はそのまま倉庫から消えた。

シャツから手を放すと洋人は無言で睨んできたが、これは素知らぬ顔で流しておいた。

 

「連中が言ってやがった。結衣を捜していたあいつらを東の街まで誘導したやつがいる」

 

苛立ちをそのままにして、春樹が俺と洋人に言った。

 

「綾音から連絡があった。先走った皇龍の下のやつらが、結衣いに危害を加えた」

「結衣は……?」

 

息をのんで、洋人が尋ねた。

 

「外傷はあるが、一応大事には至らなかったそうだ。助けたのは皇龍の上層部らしい」

 

驚きを隠せない俺と洋人とは逆に、成見と菜月は冷静だった。

先に話を聞いていたのだろう。

 

「綾音も皇龍と接触したようだよ。残念なことに」

 

成見が困った顔で苦笑する。

ということは俺たちの代の卒業アルバムが使われたわけか。

卒業生と教員分、軽く200冊は世に出回っている代物だ。

利用されても不思議ではないと探っていたが、本当に皇龍がそれを情報源にしてしまうとは。

 

「後悔してるかい? あんな小細工をしてしまったこと」

 

成見が試すように春樹に聞いた。

あんな小細工。

卒業式の日に教員の戸惑いを無視して押し通した、集合写真のボイコットのことだ。

 

当時にしてみれば、あれは何も言わず勝手に逃げた結衣に対する、繋がりを残す手段だった。

 

――生憎と、俺は妹が大事なんだ。てめえらより結衣の意思を優先するのは当然だろ。

 

3学期の期末テストが終わると同時、結衣は学校に来なくなった。

高校受験の会場にすら姿を見せなかった結衣を不安に思い、菜月とともに結衣の家に行った時に告げられた言葉。

幼いころより結衣を知る菜月が、その人を年の離れた結衣のお兄さんだと言っていた。

俺たちに冷たい視線を浴びせたその人は、結衣がどこの高校に進学するのか、今どうしているのかということを一切教えてくれなかった。

 

――会いたきゃ自分らでなんとかしろ。無理ならその程度の縁だったと思って諦めろ。

ま、ここまで心配してくれるやつなんざ今時そうそういないだろうし、意固地になって逃げる結衣の頑固さも問題のひとつなんだろうけどな。

 

俺たちを突き放しながらも、彼は意地の悪い子どものような笑みを浮かべた。

 

――結衣は卒業式には行かない。実家にも当分帰らない。俺も家族もお前らに行き先は言わない。

けどなあ、お前らが結衣を捜すのに関しても、止めるつはりもない。

 

結衣のお兄さんが俺たちを見下ろす。

 

――うちの家訓だが、大人が子どもに口出しするのは一定の限度を超えた時だけだ。

捜せるもんなら捜してみろ、前みたいな関係に戻りたいなら戻ってみろよ。

 

言うだけ言って、彼は家の中へと消えた。

その挑発が、俺たちに火をつけたのは言うまでもない。

何が何でも絶対に見つける。

あいつが俺たちを見限ったとしても、勝手に消えた文句のひとつぐらいはぶつけやろう。

菜月と成見、洋人と俺の4人でそう誓った。

とはいえ俺たちは、結衣が春樹や綾音を含めた仲間をただの他人に切り替えたなんて、これっぽっちも思っていなかった。

結衣の情の厚さは、心を許した者に対して並外れたところがある。

そこに自分をどうでもいい駒のように扱ってしまう悪癖が合わされば、こっちの望まない自己犠牲をあっさりと遂行してしまうのが毎回俺たちの悩みだった。

結局今回も、結衣は自分を犠牲にしたんだろう。

 

反省しろ、悩めばいいという意趣返しで春樹と綾音には黙っていたが、俺たちの結論はそんなとこだ。

俺たちが償わなければならないのは、結衣ひとりに仲間内の関係性を背負わせてしまったことじゃない。

中3の冬、大人が子どもに口出ししなければならないほどのことが起こっていたのに、俺たちは何もしてやれなかった。

何年一緒にいたんだ。あいつがそういうことを隠す人間だって分かっていたはずだ。

なのに結衣のお兄さんの言葉に引っかかりを覚えるまで、俺たちは学校で結衣に何があったのか、調べようとすらしなかった。

行き先は知れない。連絡も取れない。

そんな結衣に残してやれる、何年たっても消えることがない俺たちからの意思表示。

あの卒業アルバムを結衣が見ることはそうないだろうと踏んでも、ふとした時に振り返って、気付いてくれたならばそれでよかった。

東の連中が暴れまわったりさえしなければ、表に出てくることはなかったはずだ。

 

こんなつもりじゃなかったと、言い訳ならいくらでもできる。

だが、俺たちの行為で皇龍が結衣にあらぬ疑いをかけてしまった事実は覆せない。

春樹は成見を見据えた。

 

「後悔なんざ、するわけがねえだろ」

 

その言葉に、迷いは感じられない。

 

「あの写真があいつを害すものになってんなら、そうなってしまった環境を変えるまでだ。反省も謝罪も、あいつの憎まれ口に付き合うのもそれからだろうが」

 

成見のあくどい笑みが深まる。

期待通りだと、言わずに顔が語っていた。

菜月も洋人も、そして俺も、前へ進むことに揺るぎはない。

振り返れても戻れない。それが過去だ。

だからこそ、次を考えて進むしかないのだと、かつて皮肉交じりに笑って言っていたのは結衣だった。

 

「手始めにいい加減うっとうしい東のあほどもを徹底的に黙らせるぞ。妙なうわさを流される前に、皇龍とも正式に連携を取りたい」

 

モノトーンとしての話になると、遠くから見ていたメンバーも俺たちのもとに集まり出す。

 

「夏休みが終わるまでに、少しは静かにしておきたいもんだ」

 

この街も、結衣の周りもと、春樹はメンバーに聞こえないように呟いていた。

 

  ☆  ☆  ☆

続く


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