モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 モノトーン編下1-1

1-1

 

  ☆  ☆  ☆

 

至急、倉庫へというメールを成見から受け取り、ちょうどバイトが終わった洋人を拾ってモノトーンの拠点へと急いだ。

大きなシャッターが全開となった、海に面した倉庫の1階。

俺たちが到着したとき、コンクリートの床に4人の男が尻もちをついて目の前に立つ春樹を見上げていた。

春樹の後ろには成見と、普段は暴力沙汰には顔を見せることのない菜月が控えている。

いつもは1階奥のスペースにてソファやベンチで自由に過ごしているモノトーンの他のメンバーたちも、この時ばかりは固唾を飲んで直立していた。

みなが春樹の怒気に当てられている。

 

「どういうことだ」

 

うちのリーダーが激怒している原因であろう4人には心当たりがある。

モノトーンの活動に参加したいと春樹に言い寄っていた連中であり、俺たちがその申し出を却下したやつらだ。

同じ中学の同じ学年という共通点から、過度な仲間意識を持たれていたのも知っている。

こいつらは以前から必死になって、結衣に謝りたいと俺たちに訴え続けていた。つまりは中学3年の冬、結衣に手を出した連中ということだ。

その謝罪を切望する必死な態度が俺たちの神経を逆なでしていたなど、おそらくこいつらは知る由もないのだろう。

4人と春樹を避けるように回り込み、成見たちのもとに歩み寄る。

 

「有希、洋人もお疲れ」

 

到着した俺と洋人に、成見は冷たい笑みを浮かべながら4人を顎で示した。

 

「勝手に接触してしまったらしいよ。結衣と」

 

横で、洋人が目を見開いて息を飲む。

菜月は俺たちに見向きもせずひたすらに連中を睨み続けている。

身長165センチを超える、女子にしては長身の菜月の華奢な体は怒りで震えていた。

眉にかからないベリーショートの髪。

前髪で隠れることのない瞳には涙が浮かぶも、必死に歯を噛みしめて感情が決壊するのをこらえている。

 

「なるほど。で、余計な真似をしてくれた結果があれか」

 

やつらのはれた顔や半べその表情に、ことを察する。

俺と洋人が来る前に散々春樹に痛めつけられたのだろう。同情の余地は全くない。

 

「うん。でもまあ、あの不細工な顔をさらに不細工にしたの、7割は凍牙の仕業らしいけどね」

「凍牙が?」

 

意外そうに洋人が聞き返す。俺もこれは想定外だ。

成見が4人を見ながら目を細めた。

 

「馬鹿が馬鹿な勘違いをして訴えて来たんだよ、春樹に。水口凍牙が結衣に謝罪する機会の邪魔をした。さらに水口はこの地域に住む自分たちに手を出してきた。水口は皇龍の味方で、裏切り者だとか何とか」

 

成見の話を聞きながら洋人のTシャツの裾を掴む。

これを放したらこいつ、確実にあいつらに突進していくぞ。

 

「真昼間からそれを俺たちに言いに来るなんて、馬鹿はどこまでいっても馬鹿みたいだったね。俺もあいつらがこんなに馬鹿だったとは思ってなかったよ」

 

馬鹿を連呼する成見を、気丈にも馬鹿どもが睨みつけてきた。

 

「――なんだ?」

 

ぶち切れ寸前の状態で睨み返す洋人に、再び連中はうつむく。

春樹が連中の中のひとり、俺たちに結衣のことを最も訴えかけていた小太りに近付いた。

びくつく小太りに構わず、胸倉をつかみ無理やり立たせる。

 

「言ってみろよ」

 

低く唸るような声で春樹は告げる。

 

「そこまでしててめえが高瀬結衣に謝りたい事柄はなんだ。――中3の冬、てめえは結衣に何をした?」

「……あ、……う……」

 

小太りはうろたえながらも床にはいつくばる連中に助けを求めたが、3人は顔を背けて目を合わせようとしなかった。

 

「言え」

 

威圧的な命令に、耐えきれなくなった小太りが目を泳がせながら口を開く。

 

「……廊下ですれ違う時に嫌味を言ったり……、自転車をパンクさせた……」

「それだけか?」

「あ……ああ、それぐらいだ。高瀬は放課後呼び出しても来ようとしなかったし、俺なんかよりあいつらのほうがよっぽどひどいぞ。体育館倉庫に閉じ込めたり、すれ違いざまに足を蹴ったとか腹に一発入れたとか、自慢げに話してたのを聞いたことがある!」

「なっ!」

 

自分可愛さゆえに情報を提供した小太りに、床にいる連中が焦り出す。

 

「お前だって、階段で高瀬の背中を押してやったって、笑って話してたじゃねえか!」

 

醜いまでの打ち明け合戦に、菜月は眉間にしわを寄せて顔を歪ませた。

成見がそっと菜月の肩を抱く。

俺もあまり冷静ではいられない。

加害者と被害者、両方の思惑によって隠された事実。

それだけのことが結衣の身に起こっていたのに、何ひとつ気付くことができなかった。

悔しさに置く場を噛みしめる。

洋人の服を掴む手にも力がこもった。

病院沙汰になりかねないので、この手は絶対に放すわけにはいかない。

 

「あれは……たっ、高瀬だって、少しバランスを崩しただけだった……し……」

 

弁明する小太りの声は次第に途切れてゆく。

こちらからは後ろ姿しか見えないが、春樹がどんな顔をしているのかは簡単に想像できた。

 

「あの時の騒動の原因は俺にある」

 

静まり返った倉庫の中に春樹の声が響く。

 

「面倒事を嫌がるあいつが、いじめを甘んじて受け続けるなんざあり得ないことだ。面倒事の先にはあいつにとっての目的があって、お前らがそれに利用されたのだってことぐらい分かってんだ。……だけどな――」

 

胸倉をつかむ手に力を込め、春樹は小太りと目を合わせた。

 

「だからといって、大事なダチ傷つけたお前らを、俺たちが謝罪ひとつで許すなんてことあるわけねえだろうが」

 

決して大きな声ではない。それでも、苦々しい感情とともに喉の奥から出てきた言葉の迫力は相当なものだった。

春樹が手を放すと同時に、小太りはコンクリートに崩れ落ちる。

 

「失せろ」

 

連中を見渡しながら春樹は言い放つ。

 

「二度と俺たちの前に姿を現すな」

 

これだけ言われながらも、未練を捨てきれないのだろう。

男たちはしぶしぶ立ち上がり、去り際に春樹の後ろにいる俺たちを何度も振り返った。

 

「……かないから」

 

菜月の声に、連中は足を止める。

 

「あんたたちが明日事故で死んでも、わたしは絶対泣かないから」

 

怒りをあらわにした涙声で、菜月は最後まで言い切った。

 

  ☆  ☆  ☆

続く


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