モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 モノトーン編中6-3

6-3

 

マンションに帰ると真っ先にシャワーを浴びて部屋着に着替えた。

一息付いた後、意を決してクローゼットを開け、棚の奥にひっそりと立てかけてあったそれを手にする。

涼君が置いて帰って以来、未開封のまま手を付けていなかった中学校の卒業アルバムだ。

カッターでガムテープを切り、平らな段ボールの箱を開ける。

アルバムを包む緩衝材を引きちぎり、中身を取り出した。

厚紙のカバーから本体を抜いて、ページをめくる。

表紙の裏側には校歌が印字され、次のページは桜の木と校名、そして「卒業記念」と記してあった。

もう1ページめくれば校舎と教職員の集合写真、次からは見開きでクラスごとの集合写真となっている。

この集合写真は卒業式当日に撮ったものだ。

生徒たちはみな名札の上にピンクの花飾りを付け、中央にいる先生は袴姿で写っていた。

式に出ていないわたしが、その中にいないのは当然だ。

卒業式の夜に学校へ行った時、集合写真をどうするかは担任の先生に聞かれた。

今の技術なら、後から撮ったわたしの写真をクラスの中に合成することができると伝えられたが、断ったのも覚えている。

写真なんて事前に撮ってある個人のものだけで十分だ。

それを使ってどうにでもしてくれと言ってあったので、わたしが集合写真の右上に配置されているのはおかしいことではない。

 

だけど――。

 

1組から5組まで全てのページをめくって、凍牙の言おうとしていたものが知れた。

3年2組の集合写真。

右上に丸く張り付けられたわたしの隣には、同じく春樹の丸い写真があった。

3組には洋人と有希が。

4組に成見と菜月、5組には、綾音。

みんなクラスメイトに紛れて列に並ぶことなく、右上部分に丸い写真となって配置されている。

 

「……何やってんだ馬鹿」

 

集合写真をすっぽかすなんざ、そりゃあ先生も生徒たちも混乱しただろうに。

しかも卒業式の当日だ。

人権面での考慮がなされ、欠席者の写真配置は本人の意思がなければ出来ないと担任は言っていた。

あんたたちは自ら進んでそこに載ることを望んだのか。

不自然なまでに多い、集合写真の欠席者たち。

生徒会の写真だけでなく、こんなところでもわたしと春樹が並んでいたら。

さらにはモノトーンに名を連ねたやつらがアルバムの中で同じ配置をされていたら、それは皇龍も何かあると勘ぐるだろうね。おかげでとんだ災難だよ。

本当に何やってくれてんだ、あんたたちは……。

 

責めればいい。

こんなことをされたおかげで、わたしとの関係が皇龍にばれた。

下っ端におかしな疑いをかけられた。

心臓に悪い目に合って、全身青あざだらけだ。手首も痛い。

勝手なことを。余計なことをしてくれたものだと。

文句はいくらでも出てくるのに、「迷惑だ」とだけはどうしても言いきれなかった。

このアルバムが出来たのは、西の連中が荒れる前だ。

3月中旬の卒業式。

わたしがまだ、春樹たちから逃げ続けていたそのころには。みんなはわたしに、この繋がりを示してくれていた。

 

「あんたが馬鹿なら、わたしは大馬鹿者だね」

 

不機嫌なしかめっ面をしているわたしの隣、堂々とした表情で写る春樹の写真を指先で撫でた。

それでも、もっと早くにこれを見ていればとか、そんな後悔は出てこない。

これまでの時間は、決して無駄ではなかったはずだと信じているから。

この街に来て、この高校に入ったから、凍牙と再会できた。

マヤにも会えた。

だからこそ、わたしはまた前を向くことができたのだ。

 

もうこれ以上、邪魔はさせない。

 

西の連中が手を出してくるなら、容赦なく叩き潰そう。

皇龍の所属者も例外ではない。

 

早く、早く、早く――。

向き合うために、彼らとまた向かい合えるように。

 

わたし、もあるべき答えを見つけないと。

 

 

モノトーン編中 完
モノトーン編下に続く


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