モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 モノトーン編中5-7

5-7

 

  ☆  ☆  ☆

 

島村を残して俺と武さんも廊下に行くと、今日まではアークに来ても決して2階へは上がろうとしなかった、水口がそこにいた。

 

「どうしたの、随分早いじゃん」

「言うことがあってここに向かってる最中でしたから」

 

水口は機嫌の悪さを隠そうともせず、いつもより数段愛想のない声で告げた。

 

「そ。じゃあ結衣ちゃん回収する前に報告だけお願い」

「モノトーンを名乗る連中が俺と結衣に接触しました。正規のチームのやつじゃなかったんで蹴散らしましたが、ひとり殴り合いになったと同時に逃げ出したやつがいます」

「結衣ちゃんに詰め寄った連中にも、どさくさに紛れて消えたやつがひとりいるよ。こっちは今絶賛追跡中ー」

「結衣は」

「こっち」

 

逃げたやつなどどうでもいいという水口の態度に、一輝さんはあっさり対応した。

仮眠室で眠る結衣ちゃんの傍では、マヤちゃんが椅子に腰かけている。

マヤちゃんに近い壁には翔吾が背中を預けて腕を組んでいた。

 

「連れて行きますよ」

「そうしてあげてー」

 

水口は翔吾の補助を受けて、結衣ちゃんを背負った。

 

「休ませる場所はあるのか?」

「つてがあります」

 

俺を一瞥した水口はそっけなく返し、さっさと店を出ようとした。

 

「あー、水口君、いっこだけいーかな」

「まだ何か?」

 

足を止めた水口が一輝さんを睨む。

敵意がむき出しだ。こいつ相当きてるぞ。

 

「柳先生って、知ってるよねー」

 

水口の怒りを気にせずそれを言った一輝さんの、あえて空気を読まないスキルは称賛に値する。

 

「……ああ」

 

こちらが言いたいことを理解したのか、水口はあっさりと言い放つ。

 

「中2、中3の時の担任でした」

 

………………こいつ。

 

「あの人ってずっと茶髪だったのー?」

「中3の3学期だけです。期間限定のイメチェンだと言ってましたね」

「……ふーん」

「ついでに言うと、俺の背負っているやつ、中2の時は同じクラスでしたから」

 

おいちょっと待て。

それ、今このタイミングで暴露するか。

鈴宮といい水口といい、これはどう考えても俺たちに対するささやかな憂さ晴らしだろ。

 

「2年の時のこいつの係りは柳さんの無茶ぶりの処理担当。クラス全員に押し付けられてしぶしぶこなしてましたけど、柳さんもこいつのこと、かなり贔屓にしてましたよ」

 

それだけ言って水口はとっととアークから出て行った。

……無茶ぶりの処理担当って、どんな係りだ?

 

「柳さんって?」

 

話についてこれず置いてけぼりをくらっていたマヤちゃんが、翔吾に聞いた。

 

「この前、高瀬のバイト先で、俺の隣に座っていた人だと思う」

「――って、今も面識あんのか!?」

 

聞き捨てならない翔吾の発言に、思わず叫んでしまった。

 

「柳虎晴さんなら、高瀬のバイト先の常連客なのだと本人が言ってたぞ」

「聞いてねえよ!」

「言ってないしな」

 

顔を引きつらせる俺と武さん。

さすがの一輝さんも苦笑いだ。

事情を知らない徹と翔吾は微かに首をかしげていた。

そんな中、事態を把握できずこの場でうろたえていたマヤちゃんが翔吾に言った言葉は、さらなる爆弾となった。

 

「あの人なら、静さん……あのお店の店長さんの旦那さんだって、結衣は言ってたわよ」

 

……結衣ちゃんや、どんな気に入られかたをしたら、こんな繋がりが出来上がるんだろうね。

頭を抱えてその場にうずくまる。さすがに限界だ。

結衣ちゃんも水口も。なんでそんな重要なことを今日まで黙っていたのかなあ。

くそう。あの二人の皇龍に対する警戒心はいったい何なんだ。

 

「だから、これもう使っちゃおーよ」

「何にだ?」

 

提案する一輝さんも、聞き返した武さんも、声に覇気がない。

ふたりとも精神的に疲れきっていることが丸分かりだった。

 

「結衣ちゃんに手を出すなって言っても、あの子がどんな子か知らないやつらは不満に感じるところも当然あるでしょ。自分たちを差し置いて特別扱いとは何事だ―、みたいに。あれを口で説明するのは限界があるし」

 

確かに、と徹が口を挟んだ。

 

「俺も実際高瀬と対面するまで、あいつがあんな女だって分かりませんでしたし、正直なめてました」

「うん。だからねー、あの子よりはるかにこの街で影響力を持っている柳さんを持ち出してしまおうかなって。高瀬結衣には手を出すな。よりも高瀬結衣のバックには柳虎晴が付いているってほうが、よっぽど効き目があると思うけどねー俺は」

 

そういうことかと頷きながら、俺はゆっくりと立ち上がる。

 

「勝手に使ってもいいですかね、あの人の名前」

 

何しろこの街にとって伝説となっている人だ。

 

「あんなふざけた工作してくるんだ。問題ねえと思うがな」

 

武さんはあの写真をかなり根に持っているようだ。

 

「一応お伺いは立てるべきかもねー。結衣ちゃんこんなことになっちゃったし、顔に一発ぐらいは貰うかもしれないけど、あっくん頑張ってね」

「俺が行くんですか、それ」

 

抗議はしたものの、もう喚く気力は残っていなかった。

 

その後、事後処理を任せきりにしている総長のもとへ、武さんは翔吾を引き連れて向かった。

一輝さんも、鈴宮との約束を遂行すべく2人の後を追いかけて倉庫へ行ってしまった。

3年の幹部にアークを任せ、逃走中の男の所在を追うため、俺と徹も街へ出る。

道中で結衣ちゃんと柳さんの恐怖の繋がりを聞かせてやると、徹の顔はみるみる青ざめていった。

 

そして。

一輝さんの示した手段は、2日後には街中に絶大な効果をもたらすこととなる。

 

  ☆  ☆  ☆


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