モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 モノトーン編中5-6

5-6

 

  ☆  ☆  ☆

 

俺がその人を見たのは、昨年の忘年会の一度きりだ。

長い金髪に眼鏡がとても印象的だった。

気さくな人で、あの吉澤先生をからかいながら上座で2人は酒を飲んでいた。

 

――お気をつけて。結衣は柳先生のお気に入りでしたから。

 

鈴宮が意味のない言葉を俺たちに残すはずがない。

柳先生のお気に入り……?

あの人が、先生?

頭の血が一気に下がった気がした。

俺より先に、武さんが動く。

近距離に関わらず全力で走って情報室にたどり着き、勢いよくドアを開く。

中にいたやつらが驚いて手を止めた。

 

「おい、モノトーンのやつらの中学のアルバム出せるか」

「はっ、はい!」

 

詰め寄られた情報室の島村という男は、作業を中断してパソコンの画面を切り替えた。

フォルダが選択され、縮小されたアルバムの見開きページが並ぶ。

各クラスの集合写真、胸から上がアップになった個人写真がクラスごとにレイアウトされたものが5つ。生徒会の集合写真。

ひとつひとつ確認していくが、欲している写真が見当たらない。

 

「なんで教員の集合写真は取り込んでねえんだ!」

「ええっ、それ必要でしたか!?」

 

うろたえる島村に罪はない。俺たちだってノーマークだったんだ。

 

「個々の生徒写真のページ、ひとクラスずつ順番に表示していってくれ」

「あ、ああ」

 

言われた通り島村は1組から順にアルバムのページを広げていく。

規則的に並ぶ生徒の顔写真と、ページの左上には、それぞれのクラス担任が生徒のものより少し大きく載せられていた。

 

「――っ、ちょっと待て! 今のクラスもう一回頼む」

 

2秒も待たずに切り替わっていった画面を、島村はひとクラス前へと戻した。

3年4組のページが映し出される。

そこにいたのは、明るめの茶色でウェーブのかかった髪を後ろでひとまとめにしている教師。

カメラ目線で、こちらに向かって微笑んでいる。

ダークグレーのスーツを着こなした美人は、肩幅さえなければ女性と勘違いしてしまいそうだ。

俺の記憶と違ってその人は眼鏡は掛けていない。が、しかし………。

 

「このオネエ系教師がどうかしたのか?」

 

事情を飲み込めない島村が俺に聞く。

武さんが無言で教員の名前を指差した。

 

4組担任 小柳 狐晴

 

何かを察した島村が、問題の写真と名前を拡大させる。

小柳狐晴の文字は、不自然な薄い線で四角く囲われていた。

上からシールを張り付けたような……、そういえばこの名前だけ他と少し字体が違う気がする。

島村は画面に映し出された小柳狐晴の文字をひっかく動作をしたが、そんなことで下にある文字が見えるはずがない。

 

「このアルバム、誰が持って来たんだ?」

 

武さんの質問に島村が答える。

 

「吉澤先生が高瀬結衣のことを忠告した時、せめて武藤の顔が分かればって俺らがぼやいているのを聞かれたんです。そしたらその日のうちにこのアルバムを持ってきてくださって……。早めに返せって言われたんで、必要なところをスキャンして、次の日にはお返ししました」

 

うわあ、嫌な予感しかしねえ。

 

「なあ、この人って、まさか……」

 

恐る恐る俺に伺ってきた島村にはひとまず現実を突きつけておこう。

 

「お前が一番そうであって欲しくない人だと俺は思うぞ」

「あ――! オネエとか言ってまじですいません!!」

 

島村はパソコンに向かって机に額をつけながら平謝りしていた。

 

「小柳狐晴とは、また微妙な名前の変え方だな」

「ばれてたら俺らが慌てふためいている姿が楽しめる、ばれなかったとしても、気付けなかった俺らをからかえる。そんな遊び心が満載ですね」

「気付けるかこんなもん。たちが悪すぎるぞまじで」

 

頭を抱える事態が増えた。

とにかく胃が痛い。

カメラ目線、つまりは俺たちを見つめているその人の顔をじっと眺めていると、写真の表情が心の底から楽しんでいるようにしか見えなくなってきた。

これは微笑みじゃない。にやついているんだ。

 

「水口君、すぐに来てくれるってさー。……どーしたの?」

 

情報室の開いたままだったドアから一輝さんが顔を出す。

かいつまんだ説明を武さんがしてくれて、一輝さんも問題の写真に食い入った。

 

「4組って、水口君のクラスだったよねー」

 

一輝さんの言葉に、島村が写真の大きさを元に戻した。

出席番号順にレイアウトされた生徒の中に、水口凍牙は確かにいた。

……もはや笑うしかない。

 

「水口君ってほんと秘密主義者だねー。ここまですごいと感心するよ」

 

一輝さんが人の悪い笑みを浮かべる。

 

「でもこれ、使えるね」

 

偉大な人を「使う」とは何事だ。

 

「一輝さん」

 

人口密度がやたらと高くなっている情報室に、次に現れたのは徹だった。

 

「水口来てます」

「ありがとちぃくん。にしてもすぐとは言ってたけど、早かったねー」

 

パソコンから離れた一輝さんが部屋を出る。

何を企んでいるのか、聞き逃してしまった。

 

  ☆  ☆  ☆

続く


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