モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 モノトーン編中5-3

5-3

 

  ☆  ☆  ☆

 

 

「うん、まあ、感性は人それぞれだし、話を先に進めるねー。結論から言ってしまえば、君が来なくても皇龍は結衣ちゃんに手を出すようなことはなかったんだよねー」

 

一輝さんは拓馬の伝えた出来事を総長から聞いているのかと、ふと疑問に思った。

俺たち幹部があの子の害にならなくても、俺たちの統率力不足で下の連中の不始末があの子に及んでいるかもしれないのだ。

 

「結衣ちゃんのお友達の彼氏がさー、皇龍にいるんだ」

「……お友達、ですか?」

「意外かなー? ま、ひとりだけだけど」

「ひとりでも驚きですわ。菜月にも知らせてあげないと」

 

結衣ちゃん、君は仲間内からどんな風に思われているんだろうね。

 

「自分の把握してないところでできたお友達に嫉妬しちゃったー?」

「まさか、お礼を言いたいぐらいですわ。……結衣は、ひとりじゃなかったのね」

 

安堵の息をもらす鈴宮は、心の底からほっとしているようだった。

 

「ついでに水口凍牙君ともよくつるんでるよー。しかもなんと、現在2人は交際中でーす!」

 

一輝さんがかました大暴露に、鈴宮は目を見開く。

 

「凍牙くんと? あの子、また何か壊す気かしら」

 

あ、そっちの方向にいってしまうんだ。あらかた間違いじゃないけどね。

さすが、結衣ちゃんのことはよく分かっている。

付き合いの長さは鈴宮のほうが俺たちよりも格段に長いのだから当然か。

 

「後悔してたよ。自分が気に留めなかったことで、大事な人を傷つけてしまったって」

 

俺の言葉に、鈴宮の瞳が揺れた。

嫌われて罵られたほうが遥かに楽だと思えるような、苦しい顔で笑う。

 

「……傷つけたのは、わたしのほうよ」

 

泣きそうな顔に、はじめて鈴宮が年相応の女子に見えた。

そういや年下だったんだな。結衣ちゃんも、鈴宮も。

 

「野暮でしたわね。これはあなたがたに漏らすことではありませんでしたわ」

 

しっかし切り替えは非常に早いな。

引きずってこの場にマイナスの感情を話し合いに持ち出さないのはあっぱれだ。

 

「あなたがた皇龍の結衣に対する方針は、武藤に確かに伝えさせていただきます。現在、モノトーンの幹部といえる者たちは、四六時中どこかで誰かに監視されている状態だそうです。モノトーンを敵とする者たちが何を狙っているかは定かではありませんが、武藤は皇龍とのいさかいは望んでおりません」

「監視って、物騒だねー」

「夏休みで皆様暇を持て余しているようですわ。もうほんと、プライバシーも考慮しない探偵気取りには困ったところがありますわね」

 

いやいや、懸念すべきはそこじゃない。

 

「君がここに来るのは、誰かにつけられたりしてないのか?」

「わたしはモノトーン自体とは一見無関係な立ち位置ですし。念のため他県にある母方の実家からタクシーでここまで来ましたので、問題ありませんわ」

 

……タクシー代はいくらかかったんだ、このお嬢様が。

 

「わたしを理由にモノトーンと皇龍が衝突するようなうわさが立つ場合、あなたがた側に何かしらの膿があると考えていただいて問題はないかと」

 

俺たちに食ってかかる度胸があって、頭も回る。

武藤の周りにはこういう女しかいないのか。

結衣ちゃんと鈴宮、ここに咲田菜月という子が揃ったらどんなことになるのか、怖いもの見たさで興味がわいた。

 

「高瀬とお前たちの仲は戻らないのか?」

「先のことは分かりませんわ」

 

総長の問いに、鈴宮は寂しそうに首をかしげる。

 

「昔のような仲に戻りたい、とは言わないんだね」

「それはわたしの望みであって実際にそうなれるかなんて、誰の知るところでもありませんもの」

 

未来は誰にも分からない、それは当然のことだ。

だが、それを理由に自らあの子に歩み寄ろうとしない鈴宮に少し腹が立った。

 

「過ちがあると自分で分かっているなら、まずは君が進んで謝るべきなんじゃないのか」

 

こそこそ隠れて俺たちに結衣ちゃんの無実を訴える前に、あの子をモノトーンに引き入れて守り通せばいいだろうに。

俺の言及に、鈴宮は何も返さない。

まるで部外者の言葉は耳に入れないというかのその態度が、ますます癇に障る。

 

「結局は結衣ちゃんに責められるのが怖いだけか」

「……あの子が責めてくれるなら、そんなに嬉しいことはありませんわ」

 

可愛い顔して変態なのか。

まくし立てようとした俺を止めたのは、一輝さんだった。

 

「ごめんなさいって言葉は、相手が自分に何かしらの感情を持ってないと通用しないもんねー。それが憎しみや嫌悪であっても、自分を意識しているってのが絶対条件だ。つまりはそういうことだよねー?」

「……わたしはあなたが一番怖いわ」

 

一輝さんに対し鈴宮が苦笑する。ちっとも怖がっているようには思えない。

 

「あの子にとって、君がどうでもいい人間になってしまっているのなら、君のごめんなさいなんて迷惑意外の何でもない」

 

一息ついた一輝さんは後ろに体を向けて口角をにやりと持ち上げた。

訳が分からず当惑している俺に苦笑して、ソファに深く座り直した。

 

「俺はむしろこのお嬢様の愛情が薄ら寒いよ。自分に無関心かもしれない女のためにこんなところまで乗り込んできちゃうんだからねー」

「お褒めに与かりまして嬉しい限りです、と言いたいところですが、責任を感じているのも事実ですわ。あの卒業アルバムは、わたしたちが勝手にしたことですし」

「あれ? あの集合写真考え付いたのって結衣ちゃんじゃなかったの?」

「悪だくみを思いつくのは大概武藤のほうですの。結衣は武藤の決めた最終目的にたどり着く過程を考えるのが上手なんです」

 

一輝さんの言葉の意味を理解しきれない俺を置いて、ソファ2人の話は盛り上がっていく。

 

「写真と言えば、あの結衣ちゃんの仏頂面、ものすごく笑えちゃったんだけど。あれ、撮影の時にカメラマンに嫌味でも言われた?」

「写真は電話の次に苦手なものらしくて、カメラのレンズを向けられるだけで不機嫌になってしまうの。こっそり取ったらあの子すっごく可愛いのですよ。とっておき、見ます?」

「あー、見たいみたい―」

「女子かあんたらは!」

 

いや、鈴宮は正真正銘の女子なんだが、ここはそんなトークを繰り広げる場所じゃないだろ。

なんだこれ。もしかして俺、遠まわしにおちょくられてるのか。

 

「あっくんもまだまだ修行が足りないねー。あー、これ、なかなか気持ちよさそうだよー」

「……猫だな」

 

鈴宮のスマホを一輝さんが総長に見せる。

気になって覗きに行けば、日本家屋の縁側で猫と一緒に丸まって寝ている結衣ちゃんが映っていた。

結衣ちゃんの隣には咲田菜月が座っていて、カメラに向かってはにかんでいる。

どこのお宅かは知らないが、安心しきった結衣ちゃんとは珍しいものを見た。

 

「そろそろお暇いたしますわ。少しほっとしました。こちらにも、結衣を気にかけてくださるかたがいらっしゃるみたいで」

 

俺を捉えて鈴宮は微笑む。

鈴宮の中身さえ知らなかったら、可愛いと思えたはずだ。

 

「ああ、武藤からの伝言をもうひとつ忘れていましたわ」

 

一輝さんから受け取ったスマホをショルダーバッグにしまった鈴宮が、思い出したように顔を上げた。

 

「折りを見て、今度はモノトーンというチームとして皇龍に接触する、と。友好的な関係が築けないようなら、地元の地固めが終わり次第モノトーンは解散しても構わない、とのことでした」

 

一見こちらに都合のいい提案に聞こえるが、これはそんなおいしい話じゃないよな。

 

「そうなった場合うちと君たちの街の中間にいる、馬鹿な連中は……」

「もちろん、後は任せると言いたいのでしょうね」

「押し付けられてるよね、それって。解散するとか、脅しにしか聞こえないからね」

 

武藤が曲者だとはよく分かった。

対応するのは俺じゃなくて一輝さんだろうから、そこはまあよしとしよう。

俺たちが結衣ちゃんに危害を加えなくても、それを下の連中にまで浸透させるのには時間がかかりそうだと鈴宮に伝えるため、口を開き出かかった俺の声は――。

 

「結衣!!」

 

部屋の外個から聞こえた、マヤちゃんの悲鳴にかき消された。

 

  ☆  ☆  ☆

続く


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