モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 モノトーン編中4-4

4-4

 

公園の遊歩道へと続く石の階段を上がる。ざっと20段ほどあるのだが、段差が均一でないため地味に疲れる。

登りきったところで、さらにげっそりしてしまう事態に遭遇した。

遊歩道に、どう見ても不良にしか思えない連中が1、2、3……6人と、ギャル系女子が3人。大所帯だな。

そいつらが、わたしをどう見ても好意的とは思えない目で睨みつけていた。

 

「……高瀬、てめえやっぱり、モノトーンの手先だったんだな」

 

そう言ってきた男には見覚えがあった。

わたしと仲良くチェーンメールの写真に載って、世間に晒されたひとりだ。

 

「意味が分からない」

「とぼけんじゃねえ! さっきモノトーンを名乗ってる連中が、お前の名前を読んでいるのを見たやつがいるんだよ!!」

 

それで知らせを受けて、こうやって待ち構えていたというわけか。

しかもこの人数で。

これはまた、随分と――。

 

「タイミングのいい話があったものだね」

「はっ、認めたか。まあお前がモノトーンの関係者だってのは大分前から分かってたんだけどなあ」

 

得意気な男は置いておいて、他の連中を注意深く観察していく。

3人で固まっている女子はいいとして。

怒りをにじませる男たちにひとり、周囲にまぎれて怒った顔を作りながらも明らかに緊張しているやつがいた。わたしよりも近くにいる男連中が気になるようで、視線が右に左にとさまよっている。

――こいつだ。

 

「わたしを糾弾する前に、そこの灰色Tシャツを取り調べたほうがいいんじゃないの?」

「は……、何言ってやがる」

 

急に話を振られて、明らかにそいつは動揺した。

 

「自分の身が危ないからってこっちに疑惑ふっかけてんじゃねえよ」

 

別の男が詰め寄ってくる。

 

「この人数からして、水口凍牙もここにわたしと来ることを見越した人員か。よくもまあここまで頭の緩いやつらを集められたものだねえ」

「ああ!?」

 

いきり立つその他の連中は無視して、灰色Tシャツだけを見据える。

凍牙と2人で歩くルートは定番化すべきじゃなかったか。

小野寺雫に見つかりやすくしていたわけだが、こんなところで弊害が出るとは。

 

「さっき絡んできた連中に身元不明が2人いたんだけど、どっちかあるいは両方、あんたらのお仲間だったりするのかな。これまた頭の緩い連中をこの街に誘導するのは、さぞかし楽な仕事だったろうね」

「訳分かんねえこと抜かしてんじゃねえ!」

 

男がひとり詰め寄ってくる。パンっと耳につく音とともに、頬に強い衝撃が来た。

 

「女だからって手え出されないとでも思ったのか」

「口で勝てないからって手しか出せない三下は黙ってろ」

「なっ」

 

絶句する男を置いて、次第に不安を隠しきれなくなっているそいつを再び射抜く。

 

「目的は、皇龍とモノトーンの争いを誘発させる、といったところか。随分な大事に使おうとしてくれたね、わたしを」

 

チェーンメールは西の街にも広がっていると野田先輩は言っていた。

さっきの中学の同級生がわたしを捜していると、西の連中が知ったとしたら。

そこから2つのチームと関わってしまったわたしを火種にしようと企てるのは、十分に考えられる。

私情よりも、皇龍やモノトーンに反発している組織の存在を注意する必要が出てきた。

だけど皇龍はこんな馬鹿もいるのはいるけど、上のほうはしっかりしているようだしなあ。

春樹もこんな浅はかな手を使うやつに惑わされるとは思えない。

 

「残念だけど、帰ってお仲間に伝えな。武藤春樹はこの程度で揺らぐような小者じゃないんだって」

「てめえ、やっぱりモノトーンの武藤と繋がってんじゃねえか!」

 

怒り心頭の男がわたしの胸倉を掴みかかる。

若干うつむき気味で唇を震わせる、灰色Tシャツがこいつらの目に入っていないのが不思議だ。

ああでも、さすがにこいつはうっとうしいな。

 

「わたしと武藤に関わりがあったとして、あんたとどういう関係があるの?」

「モノトーンの武藤と繋がっているてめえが、この街の高校に入学している時点で何もかもおかしいじゃねえか。自分は無実だと言いたいなら、この街に来た理由を言ってみろ!」

 

真剣に言ってくる男に笑いが込み上げた。

馬鹿馬鹿しいにも程がある。

 

「なに? ひとの込み入った事情を知る権利があんたにはあるの?」

「――っ、俺は皇龍だぞ!!」

 

これまた大胆な脅しだ。でもね、使う相手を間違ってるよ。

 

「だから? それはわたしが事情を話す理由に成り得るの? というよりあんた一体何度自分の思い通りにするために、そのセリフ使ってきたの?」

 

皇龍は幹部には結構な人が揃っているけど、末端はたかが知れているようだな。

どうやら大きな組織のほころびを目の当たりにしてしまったようだ。

 

「てめえ!」

 

図星を指されたからかは定かじゃない。

だけど男が逆上したのは事実だ。

胸倉をつかんでいた手で、男はわたしを思い切り後ろへと突き飛ばした。

わたしの後ろは、さっき登った階段しかなくて。

足がつくはずの地面に見放され、体が宙に投げ出された。

とっさに上体をひねってなんとか手から石段に着く。

手首に電気が走る。

打ちつけた肘から二の腕を今度は体と段差の角で挟みこんだ。

横向きになって階段を転げ落ちる中、走馬灯のように記憶が蘇った。

 

中学の校舎。

わたしが見上げたそこで、うすら笑いを浮かべていたあの男の顔。

思い出した。さっき会った小太りを、わたしは知っている。

でもやっぱり、大したやつじゃない。

思い出し損だ。

どうでもいいことだったと考える途中で、意識が暗転していく。

何やってんだ、わたしは。

こんなところで立ち止まっているわけにはいかないのに。

 

みんなにもう一度会おうって、決めたのに――。

 

 

続く


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