モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 モノトーン編中4-2

4-2

 

 

青になった信号に足を踏み出そうとした途端、凍牙がわたしの手首を掴んだ。

横断歩道から180度引き返し、すぐそこの細道へと連れられる。

 

「どうしたの?」

 

速足の凍牙に躓きそうになりながらも付いて行く。

建物に挟まれた路地は薄暗く、足元がおぼつかない。

 

「――嫌な顔を見た」

「は?」

 

嫌な顔と言われて思い浮かんだのは、皇龍幹部の顔見知りたちだ。

だけど彼らだったら、多少気まずくはあるけれどここまで避ける必要はないはず。

一体何を見たのかと、凍牙に聞こうとした時――。

 

「高瀬!!」

 

背後の声に気を取られ、わたしは段差に足を取られてしまった。

バランスを崩したわたしを凍牙が支えてくれたため、ことなきを得る。

今の、手首を持っててくれなかったらコントのように気持ちのいいこけかたをしたよ。

誰だ不意打ちで呼んだのはと振り返ると、5人ほどの集団がいた。

全員男。暗がりで分かり辛いがわたしと同じくらいの年齢か。

 

「高瀬、だよな。やっぱりこの街にいたんだな」

 

1歩2歩と近付くにつれ男たちの顔ははっきりしていくが、いまいちピンとこない。

 

「……蹴飛ばしてやりてえ」

 

前の集団より横から聞こえてきた物騒な声のほうがよほど気になる。

 

「……あ」

 

細い道なので体つきの良い5人の男は横一列には並べない。

顔と顔の間に見えた後ろ側にいたやつが微かだが記憶に引っかかった。

 

「後ろの右側、中3の時同じクラスだった人だ」

「他は?」

「知らない」

「前の3人のうち右と真ん中は、中3と中1でそれぞれ俺のクラスにいたやつだ」

「他は?」

「知らん」

 

あ、そう。

でも5人中3人も出身中学が同じだったなら、あとの2人もその関連だろうか。

 

「なあ、高瀬。俺らずっとお前に謝りたかったんだ」

 

……何を?

本題に入られても、こいつらに謝罪される理由が分からない。

だったらこっちが把握すべきところから確認していくか。

 

「春樹が、あんたたちにわたしを捜せと言ったの?」

「は? いや……武藤はむしろ高瀬は捜すなって……」

「そ、だったらいい」

 

心の底からほっとした。

有名になった春樹が手足のように人を動かしてまでわたしを見つけようとするなんて、もはや決別を言い渡すためとしか思えないから。

こっちの事情を顧みる必要のない、みんなにとってどうでもいい人間にわたしはまだなっていない。

モノトーンの意味は、取り違えてはないようだ。

 

「なあ、許すって言ってくれよ高瀬。じゃないと俺たち、武藤に顔向けできないんだよ」

 

代表者なのか、前の中心にいる小太りの男がすがるように言い募る。

 

「本当に悪かったって思ってる。あの時は調子に乗ってたんだ。まじですまなかったって」

 

……あの時? いつだ?

許さなければならないようなことを、わたしはこいつにされた覚えはない。

それに、わたしが許さないと春樹に顔向けできないって、それは謝罪としてどうなんだ。

 

「お前今、他人のこと気にかけてる余裕あんのか?」

 

見上げると、ばっちり凍牙と目が合った。

質問に対してのわたしの答えはもちろん。

 

「全くない」

 

現在、自分のことでいっぱいいっぱいだ。

正直こいつらがどうなろうと知ったことではない。

頭をかきながらため息ひとつ、凍牙が男連中に歩み寄る。

 

「貸しひとつだ。話しつけとくからさっさと帰れ」

「いや……でも」

「今度カプリスで昼飯おごれ」

 

それはまた、手作り弁当よりもはるかに楽な条件だ。経済的には痛いけど。

 

「お願いします。ちゃんとコーヒーも付けるから」

「当然だ」

 

凍牙に背を向けて、道を奥に進む。

付き合いを始めて街を徘徊するようになって、道にも少しは詳しくなった。

この道からでも公園にたどり着ける。そこから裏道を通ってマンションに帰ろう。

 

「おい! 高瀬!!」

 

焦った男たちの声は、聞かなかったことにした。

 

 

続く


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