その他

モノトーンの黒猫SS 柳さんと凍牙

柳さんと凍牙


  ☆  ☆  ☆





「お、水口。今日は牡牛座が一位らしいぞ。なんかいいことありそうだから宝くじでも買ってみるか」

かけられた声に食器を洗う手を止めて柳さんに顔を向けた。

個性的な丸いメガネと金髪の天然パーマが特徴の雇い主は、カウンター席でコーヒーを飲みながらスマホを片手に含みのある笑みを浮かべている。

柳さんはいつもより早い時間に店に来たと思えば気まぐれに朝食を作ってくれたりと、自身の思うがままに生きている自由人だ。面白いことを好むひとではあるが、どう考えても占いを信じるような質ではない。

からかって遊ばれているだけか。柳さんの意図は不明だが、ひとまず手元の作業は再開した。

「当たるといいですね」

「おいおいつれねえなあ。『物事がなんでもうまくいく、ハッピーな1日目』の始まりに水を差すなよ」

「俺がとやかくいったぐらいであなたの今日は物事が何もうまくいかない、不幸な1日にはならないでしょう」

「ははは、そりゃそうだ」

柳さんの飲み終わったコーヒーカップを受け取り、洗い物に追加する。

「宝くじが欲しいなら学校帰りに買って来ますから、後でくじの種類と枚数を俺のスマホに送っておいてください」

要はこれが言いたかったのだろうと予想したものの、柳さんは肩をすくめてあっさりと首を横に振った。

「いらねえよ。第一俺、牡牛座じゃねえし」

ならば宝くじ云々、あのセリフはなんだったのかなど、言っても無駄な言葉は小さく溜息をついて堪えた。

下手に言い返して遊ばれるのは勘弁願いたい。

食器を洗い終え、もはや自分の住処と化している仮眠室でブレザーとコートを羽織り、厨房を抜けて店のドアより外に出る。

「営業はどうしますか」

「ああ、一応やってることにしといてくれ」

言われた通りドアにかかったプレートを「Open」に返し喫茶店のなかを覗く。

「行ってきます」

「おう、しっかり励めよ青少年」

スマホをいじっていた柳さんがこちらを見て手を振ったので、小さく頭を下げてからドアを閉めた。



  ☆  ☆  ☆

END


モノトーンの黒猫TOP

Loadingこのページに「しおり」をはさむ