モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 龍華編下5-1

5-1

 

月曜日、学校で顔を合わせたマヤにことの顛末は全て報告した。

龍華が消えてわたしと凍牙が付き合うことになったのは嬉しそうに喜んだものの、皇龍とモノトーンの関係性については複雑そうな顔をしていた。

彼氏である三國先輩は皇龍の人間だし、当然の反応だろう。

皇龍がこの先、マヤを使ってわたしをどうこうしようとするなんてことは心配していない。

それをするならとっくに利用していただろうし、何より三國先輩が許さないはずだ。

 

「現在の皇龍の、主に幹部級の人たちは組織として自分の情は犠牲にするくせに周囲に同じことは求めない。わたしとマヤが一緒にいても、多分誰も何も言ってこないよ」

 

自分犠牲に街を守るって何が楽しいんだってのが、わたしとしては正直な感想だけど。

 

「先に伝えておくけど、もしもマヤが彼氏さんのことや、街で困ることがあってもわたしに相談するなと言ってるわけじゃないから」

 

しんみりしていたマヤが首をかしげる。

 

「皇龍はどうでもいいけど、わたしは友達のためにならいくらでも尽くすよ。そこに遠慮はいらないし話ぐらいならいくらでも聞く」

 

マヤがわたしにしてくれたように。

ここでできた大事な縁を、皇龍なんかを理由に崩したくはない。そのための努力を惜しむつもりもない。

 

「……今まで通りでいいの?」

「わたしはそれを希望したい」

 

きっぱり言い切ると、マヤは緊張が解けたようにほっと体の力を抜いた。

 

「マヤのお願いだったら、少しぐらいは皇龍に手を貸してもいいし。そんなことで貸し借りや恩を売ったなんて言葉を出されたくないから、あくまでマヤが望んだってのが前提だけど」

 

さらにいえば味を占められると困るので、止むをえない事情になってしまった時限定だけど。

 

「本当にどうしようもなくなったら、綾音や菜月に訴えるのもひとつの手かもね。あそこが望んだら大魔王武藤と悪魔市宇も確実に出てくる」

「……すごいプレッシャーをかけてきたわね」

 

ほんの少し助言したつもりなのに、マヤは顔を引きつらせてしまった。

 

「どうしたらいいのかしら。核爆弾の起爆スイッチを持たされた気分だわ」

「全く意味が分かりません」

「気にしないで。そんなすごい人たちを動かせる手段を知ってしまったのが、少し怖いだけよ」

「ますます分からない」

 

今後社会的にそれなりの地位を築いていくかもしれないが、今の春樹と成見なんてただの俺様と変態でしかないだろう。

 

「……もういいわ。結衣が変わらないってだけで十分だもの」

 

マヤがうなだれる中、1限目の始まりを告げるチャイムが鳴った。

 

 

その日の昼休みが始まってすぐ、2年の教室へ西浜先輩を呼び出しに行く。

先輩はひとりで席について昼食を食べようとしていたけど、ここでこちらが気を使うわけがない。わたしも一度呼び出しを受けた身だ。

教室中から冷たい視線を浴びる西浜先輩は顔色が悪く、目に隈ができていた。

わたしが教室の外から西浜先輩を呼ぶと、以前彼女に連れ添っていた2人の女子がさっさと行けときつい言葉を先輩に投げかける。

手の平を返したように西浜先輩ひとりに全てを押し付けて、自分は悪くないと開き直る様は滑稽すぎて失笑を誘う。

西浜先輩はクラス中に急かされて思い足取りで教室から出てきた。

 

「少しだけ待って下さい」

 

断りを入れて2年の教室に入る。

名前も知らない、なんとなく顔を覚えているだけの彼女たちの前で足を止めた。

 

「龍華に入ると決めて西浜先輩についたのは、あなたたちの意思ですよね?」

 

わたしを呼び出した時、あれだけ乗りに乗っていたのだ。脅されて仕方なくなんて言わせない。

 

「自分で選択した責任を人のせいにして押し付けるあなたたちを、クラスや学校の人たちはどんな目で見ているんでしょうね」

 

首をかしげて、わざと教室中に聞こえる声量で言い放ち、息をのむ彼女たちに背を向け教室を後にした。

言葉の力は強い。

指摘されるまで気にならなかった事柄も、一度意識してしまえば人は気にせずにいられなくなる。

このクラスにいる人間は、彼女たちについてこれまでなんとも思わなかったかもしれない。だからきっかけを作ってやった。

今まで西浜先輩だけに向けられていたバッシングが、これで少しは分散されるだろう。

 

「……どうして」

 

驚きながらも西浜先輩は階段を下りるわたしについて来る。

どうしてなんて、理由は単純だ。

あの教室の空気が、ぐちゃぐちゃに引っかき回して全てをリセットしたくなるぐらいに気にくわなかったから。

もう2度と赴くことはないだろうし、気晴らしに爆弾を投下したところでばちは当たらない。

要するに、出来心からきたほんの気まぐれである。

意味なんてないに等しいから、西浜先輩の呟きは聞かなかったことにしておいた。

見晴らしのきく中庭の片隅で、わたしと西浜先輩は向き合った。

早く終わらせたいので緊張気味な西浜先輩に、さっさと質問を投げかける。

 

「好きなんですよね?」

「……何がよ」

「野田先輩のこと」

 

一瞬固まった西浜先輩の目が、ゆっくりと大きく開いていく。

顔が次第に赤く染まり、声も出ないのに口をぱくぱくさせて慌てふためいた。

しらを切るならどうやって暴こうかと、何通りか計画を立てていたのに、この人は拍子抜けなぐらい分かりやす過ぎる。

 

「龍華を立ち上げたのは、表向きに街の女性のためとうたってましたが、先輩個人の理由は皇龍――正確には野田先輩の負担を減らすことだった」

 

皇龍に依存しすぎた街の現状。代替わりしたあかつきには野田先輩が背負うであろう街からの期待。

西浜先輩から見た野田先輩は、それらに耐えられる人じゃなくて、だから彼女は野田先輩を思うあまり、何かをせずにはいられなかった。

皇龍じゃ街の女の子を守りきれないと西浜先輩はかつてわたしに言った。隠された本音は、皇龍が街の女の子を守らなくてもいいように――と言ったところだろう。

 

「皇龍とは完全に切り離した組織を目指したのは、万が一の事態が起こっても、自分がしたことの責任が皇龍に向けられるのを防ぐため。傘下としての発足だと、最終的にけじめを付けるのは上の仕事になってしまいますものね。龍華としての活動と街の評価の全てをご自身で背負うためには、あなたは皇龍と同等にならなければいけなかった」

 

皇龍が龍華を認めるということは、街で集中していた権力と影響力の分散につながる。

つまり皇龍というブランドの価値が落ちる結果になるのだが、様子を見る限りでは西浜先輩はそこまで頭が回らなかったとしても問題はなさそうだ。

 

「以上が仲間の集めた情報を元にしてわたしなりに推論した結果なのですが、間違っているところはありますか?」

 

先程まで赤かった西浜先輩の顔から血の気が引いていく。

 

「……土曜日の人たちといい、何なのよ、あなたたち……」

「今はモノトーンと名乗っていますが、元は名前もないただの気が合う者同士の集まりです」

 

これ以上は答えようがない。

 

 

続く


BACK  TOP  NEXT

Loadingこのページに「しおり」をはさむ