モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 龍華編下4-2

4-2

 

 

「まあ、そちらがなんと言おうがすでに状況は動いてしまってますし。モノトーンは龍華にすべきことを果たしました。それに対して皇龍がどう捉えようが、わたしの意見の及ぶところではありませんね」

 

モノトーンを敵として、わたしと凍牙を街から排斥したいなら好きにすればいい。

もちろんわたしたちは黙ってないし、当然抵抗もするけれど。

 

「君って本当に怖い子だねー」

「何とでも。あと言い忘れてましたが、龍華解散の証人は大御所の吉澤先生にお願いしましたので、事後の詳細はそちらに聞いてください」

「そういうことは先に言おうね!」

 

あせる野田先輩には心の中で舌を出しておく。

話の手順はわたしが決める。そっちの都合になんて合わせるものか。

日暮先輩が目を閉じてため息を漏らした。

 

「全てはお前の思惑通りか」

「最初に申し上げたはずです。ここには事後承諾にうかがいましたと」

相談に来たわけではないのだ。皇龍に意見などはなから求めていない」

「わたしからは以上です。あとはお好きになさってください」

 

ソファから腰をあげて深々と頭を下げる。

 

「そちらがモノトーンを敵とするなら、わたしたちもそれなりの覚悟で応戦します」

「しないよ。そんな百害あって一利もなければめんどくさくて次にも全くつながらないことしてるほど、皇龍も暇じゃないし」

 

櫻庭先輩は不気味なほどに穏やかだった。

彼らが感情で立てついてこないのには正直助かる。

自分たちの意思より、皇龍という組織を守るためにしみついたくせなのだろう。

 

「だけど、今回の件でよーく分かったよ。モノトーンは皇龍の敵じゃない。そして味方とも決して言えない。利害が一致した際一時的に手を組むことはあっても、一方が危うい状態になった場合はどちらにも、それを助けに行く義理は発生しない。君も、水口君もだよ」

 

街にいたとしても、わたしと凍牙は皇龍の庇護下に入らないのだと、櫻庭先輩は暗に言っている。

ガラの悪い人間に絡まれようが、乱闘に巻き込まれたとしても、自分でなんとかしなければならないのだと――。

 

「それが世間一般の普通というものですよ」

 

ひとまずここは、守られているのが当然という状況を疑ってかかるべきじゃないのか。

 

「うん。本当はそうなんだけどねえ」

 

しみじみと漏らす櫻庭先輩は力なく天井を仰ぐ。

 

「特権階級は楽しいけど、やっぱり疲れるよ。君たちみたいなのを見ていると、自分が正しいのか本気で分からなくなってくる」

 

そんなのは誰だって同じだ。少なくとも、相手の腹を探って痛いところをついて目的を達成する手段を、わたしには正しいこととは到底思えない。

最終地点で手にすべき目的が明確だから、やり方を選ばずに突き進めるだけだ。

 

「疲れたとしても、特権に甘んじる道を選んだのは先輩でしょうに」

「そうだよ。だから最後まで君とも付き合ってるじゃん。皇龍の名前背負ってなかったら、口答えした時点で今ごろ顔に一発くらわせてるよ」

「皇龍の名前を背負っていない櫻庭先輩なんて、話をする機会はまず訪れませんよ」

「あーもーやだこの子。さっさと帰って二度と皇龍に関わらないでほしい」

 

お互い様だ。わたしだってアークになんて二度と来たくない。

ソファーでじたばたと暴れる櫻庭先輩から、千里先輩はさりげなく距離を取った。

 

「来年の4月、モノトーンは解散します。だからといって、わたしたちが武藤春樹を中心とした集団であることに何ら変わりはありませんが」

 

モノトーンという抑止力を失って、西の連中が再び暴れ出すのかはまだ分からない。

だけど治安が再度悪化したからといって、モノトーンが立ち上がることはないだろう。

後を残さず、チームそのものに依存されないためにも、ここが引き際だ。

 

「その時までに、せいぜい代替わりした皇龍の基盤を整えることですね」

 

野田先輩に向かって言い放ち、返事は待たずこの場を立ち去る。

 

「これで貸し借りはなしです」

 

衝立を挟んで誰かが盗み聞きをしているのは、今に始まったことじゃない。

ある程度予想はしていたが案の定、隣のスペースでは大原先輩がソファでくつろいでいた。

年末を予定していたモノトーンの解散を4月まで延ばしたこと。

そしてその事実を前もって皇龍に打ち明けたこと。

わたしから出来る最大限の優しさは見せたつもりだ。

 

「分かりにくい気づかいだな」

 

苦笑しながらも大原先輩は軽く手を振ってくる。

皇龍が分からなくてもいい。

このやり取りはわたしと大原先輩の間でなされたものだから、彼に伝われば他に何も望まない。

要望通り、こっちは先輩から受けた借りを皇龍に返した。

 

「失礼します」

「おう、気を付けろよ」

 

1階にいる皇龍の人たちの視線を集めながらも足早に出口へと急ぐ。

外に出る時、ふと感じた視線に振り返って見上げれば、2階の手すりにもたれかかる三國先輩と目が合った。

このまま無視もなんなので軽く会釈をすると、三國先輩は小さく頷き奥へと消えた。

 

 

続く


BACK  TOP  NEXT

Loadingこのページに「しおり」をはさむ