モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 龍華編下4-1

4-1

 

 

――凍牙はモノトーンです。

 

 

 

ソファに浅く座り直した櫻庭先輩が足を組んだ。

膝に肘をつき、手の甲にあごを置いたまましばらく目を細めて考え込む。

 

「それは聞いてないねえ」

「言ってませんから」

 

いぶかしげな皇龍の人たちに、話を信じ込ませる努力はしない。

信用なんてされなくていい。彼らが嘘だと分かっていたところでどうしようもできない状況まで持っていけば、目的は達成できる。

 

「ふーん。水口君がモノトーンに入ったとか、これは結構重要なことだと思うんだけどなー、俺は」

「重要かどうかはあくまで皇龍にとってでしょう。モノトーンからしてみれば、凍牙とは中学からの付き合いですし。いつどのタイミングでモノトーンになったとしても、自然すぎる流れでどこかに報告する必要性も感じられませんでした」

「君がモノトーンに入った時は、ちゃんと皇龍に言いに来たのに?」

「わたしの場合は言っておかないと、いつまでも櫻庭先輩が皇龍に入れとうるさかったからですよ。凍牙には今年の春にしつこく勧誘したのを断られて以来、表だって声はかけてないそうじゃないですか。状況が違いすぎます」

 

わたしの言い分を崩しにかかりたいのだろうが、生憎こっちは屁理屈ともっともらしい理由づけに関して柳さんも認めるだけの技術を持っている。

櫻庭先輩の探るような視線はなんともなしに受け流した。

好きにすればいい。わたしの真っ黒な中身を見たところで、何の糸口もつかめはしないだろう。

 

「水口がモノトーンに所属したという情報は皇龍に伝える必要がないと、モノトーンは判断した。ということだよね」

「そうなりますね」

 

口を挟んだ野田先輩にも間髪いれず即答する。

徐々に険し表情になっていく野田先輩と千里先輩を見て、軽く息を吐いた。

 

「利害の一致による同盟は組んだといっても、1から100までチーム内の出来事を伝え合うような仲良しこよしな関係ではないでしょう。モノトーンと皇龍も、わたしと、皇龍も。こちらだって自分たちにとって有益となる情報を、わざわざ他に教えて回るまねはしませんよ」

 

日暮先輩は微かに目を細めたものの、口出しはしてこない。

わたしと、皇龍をモノトーンから外して挙げた理由に、おおよその察しがついたのだろう。

 

「ご存知だったでしょう? 凍牙がなぜ、龍華として西浜千香と行動しているのか。本当の理由も全て、あなた方は随分と前から把握していたはずです」

 

これは有希の推測だ。

自校の裏サイトという秘密裏に情報が飛び交う場所を、皇龍が知らないわけがない。

皇龍の話題だって、そこでは1日に何件も取りざたされているのだ。

そんなサイトを彼らが野放しにしておく理由。

皇龍も有希のように裏サイトを情報収集に活用しているか。もしくは裏サイト自体も、皇龍の管理下に置かれ学校や街の情報操作に利用されている。

どちらであっても不思議じゃないと、有希は言っていた。

そして、自分が日奈守にいながら知ることができた凍牙と西浜千香の関係を、皇龍が掴んでいないのはまずあり得ない、とも。

全てを知っていながら、わたしが龍華について櫻庭先輩に尋ねた時、彼は真実を伝えなかった。当然だ。わたしは皇龍じゃないのだから。

櫻庭先輩はじっとこちらを見つめたまま、口を開かない。

膝に手を置く千里先輩のこぶしには力が入り、瞬きの回数が増えた。

 

「ずっと待ってたんですよね。龍華が皇龍の敵として本格的に動き出すのを。龍華を叩き潰す正当な名目ができれば、あなたたちはすぐにでも動いたはずだ」

 

街の敵として龍華を始末できれば、その延長で水口凍牙を危険因子として皇龍に取り込むという大義名分を手に入れられる。

凍牙がどんな理由で龍華に留まっていたかなんて、皇龍には関係のないことだ。

ずっと狙っていた人材を手に入れるために皇龍もまた、龍華を利用しようとしていた。

 

「ひどい言いがかりだねー。証拠でもあるの?」

「ありませんよ。全てわたしの推測です」

 

とぼけているようだが、櫻庭先輩は諦めたように笑う。投げやりな様子が目立った。

 

「ですが、凍牙の口から以外でも、モノトーンのひとりは日奈守にいながら龍華と凍牙の関係を知ることができました。遠く離れた場所にいる者がつかめたこの街の情報を皇龍が見逃したなんて、これが本当ならそちらにとっては大問題じゃないですか?」

 

認めなくてもわたしは別にかまわない。

この件がもし表沙汰になった場合、首が閉まるのは皇龍のほうだ。

 

「何にせよ、龍華は今日モノトーンが潰して終わりです。龍華に脅されていた凍牙もモノトーンへと完全に戻ります。そちらがこの件でとやかく口出ししてくるのなら、今度は皇龍がモノトーンの敵となるだけです」

 

何も話そうとしない日暮先輩が目線を下げた。

視線の先、櫻庭先輩の出方をうかがっているのだと勝手に考える。

この人は思考が全く読めないけれど、下の人間を好きにさせているあたりからして、わたしもそこまで慎重にならなくて大丈夫なのではと最近思えるようになってきた。

わたしが最も注意を向けるべきは、この場を取り仕切っている櫻庭先輩だ。

ソファの背もたれに上半身の体重を預け、深めに座り直す。

床から離れた足は力を抜いて、くつろげる姿勢に切り替えた。

 

「別に、これは皇龍にとっても悪い話ではないと思いますよ。龍華のことも身内に手を出されたモノトーンの顔を立てるため、今日皇龍は動かなかった。みたいにしていただければ、そちらの面目も守れるでしょうし」

 

街で起こったいさかいに皇龍が出遅れたととられるよりは、はるかにましな言い分だろう。

 

「武藤君たちは、水口君のこと、了承して動いてくれたのかなー?」

 

櫻庭先輩が何気なく聞いてきたが、「はい」なんて簡単には言ってやらない。

 

「了承も何も、凍牙はもともとモノトーンだからそんなものは必要ありませんよ。仲間のためにモノトーンが動くのは当然です」

「……貫き通しやがる」

 

千里先輩の呟きは軽く聞き流した。

当り前だ。こんなところで墓穴を掘ってたまるか。

 

 

続く


BACK  TOP  NEXT

Loadingこのページに「しおり」をはさむ