モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 龍華編下3-6

3-6

 

  ☆  ☆  ☆

 

立ち尽くす女たちを置いて、モノトーンは駐車場を後にした。

うなだれて泣き続ける西浜は、吉澤先生が車の助手席に押し込み家まで送ることとなる。どうやらあのまま女たちの中に残すのは危険だと判断したようだ。

最後まで結衣について武藤にぶつぶつと漏らしていた吉澤先生に、武藤が俺を示し「今後はこいつが歯止め役になりますよ」と言ったのは幻聴だったと信じたい。

瀬戸と君島、沢辺は吉澤先生が去ってすぐに日奈守へと戻った。

最後に3人にも助かったと素直に謝辞を述べると、こいつらは顔を見合わせる。

 

「凍牙が俺たちに礼を言った! やばい、明日は猛吹雪だ。寒波に備えろ!」

 

などとやつらは失礼極まりないことを抜かし、テンションの高いままバイクの轟音を響かせて逃げるようにいなくなった。

 

「ほらよ」

 

パチンコ店の前の道で、武藤が俺に投げたものを反射的に受け取る。

 

「虎の威ぐらい借りとけ。特に何かをてめえに強いるわけでもないんだ。それが窮屈だと感じるならいつでも抜けて構わない」

 

握った手の平を開く。武藤が寄こしたのは、チェーンのついたシルバーのプレートだった。

今年の3月の日付と、俺の名前が彫られ、裏面には筆で無彩色の絵が描かれている。

プレート全体は透明な樹脂か何かでコーティングされていた。

 

「無所属でいることを煙たがるのがいるなら、モノトーンか俺の名前を出せばいい。それでも信じないやつには、結衣と一緒にそれを見せろ。あいつも同じものを持っている」

 

プレートの絵は、伏せる灰色の狼だ。そしてなぜか、狼の腹の部分には寄り添うように黒い小さな猫が丸くなって眠っている。

一見するとただの黒い物体なのだが、耳や手足、顔の輪郭から毛並みまでを黒い塗料の凹凸によって表現された、紛れもない黒猫である。

細か過ぎる細工からは、制作者の強いこだわりがうかがえた。まさに職人技だ。

 

「いいか、俺の綾音が丹精込めて描き上げた逸品なんだ。不要になったからと言ってそこらに捨てんじゃねえぞ。そのそ気は絶対に俺まで返却しやがれ」

「分かったから惚気るなうっとうしい」

「ああ!?」

 

すごむ武藤を無視し再びプレートを見つめる。

 

「お前らはいいのか?」

「今更だな」

 

モノトーンになれと結衣に言われた時から、後ろめたさと迷いは常にあった。

そんな俺の不安すらも、岩井は一蹴する。

 

「お前がらしくもなく遠慮なんざして来るなよ。そうやってかしこまるから逆に隙間ができてややこしいことになるんだろ」

「そうそう。モノトーンという名前ははずみでできでしまった、はもともと俺たち集団とも呼べない集まりだからね。いつ人が減っても増えても、何も不思議じゃないよ。というわけで、結衣のことは頼んだから」

 

市宇がさらっととんでもないことを言い置いて、何事もなかったかのように背を向ける。

 

「さ、早く帰ろう。心配して待ってる菜月に一刻も早く報告しないと」

「綾音もだろうが」

 

言いながら武藤はバイクにまたがり、その後ろに市宇が飛び乗った。

 

「結衣に渡しておいてくれ。あいつは今、おそらくアークにいるから、あちらの状況が知りたいなら迎えに行ってやれ」

 

蔵元がショルダーバッグから縦長の茶封筒を俺に渡す。

あちらとは皇龍のことか。

 

「またな」

 

武藤に続きエンジンを吹かした蔵元の後ろには岩井が乗る。

結衣が皇龍との交渉に成功するのは、こいつらにとっては当たり前すぎて確認の必要もないのか。

ひらひらと手を振った市宇を合図に、2台のバイクは国道へと走り去った。

 

 

  ☆  ☆  ☆

 

続く


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