モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 龍華編下3-3

3-3

 

  ☆  ☆  ☆

敵の中でもそれなりの力があった2人を、岩井と瀬戸がマウントポジションを取ってそれぞれ地面に押さえつける。

勝敗は明らかだ。

戦意を喪失した男たちは所在なげに立ちつくし、武藤の出方をうかがっている。

いつの間にか西浜の隣から崇司は消えていた。

女たちの人数も、当初に比べ少なくなったように思える。

駐車場の出口は俺たちの背後だけでなく、西浜たちが立つ後ろ、建物とフェンスの間も人が通れる隙間がある。

分が悪いと判断し逃げ出したものもそれなりにいるようだった。

固まる女たちの中で、影がゆれる。

 

「先に言っておくが、暴力に男も女も関係ない」

 

静まる空間に、武藤の声が響く。

 

「それ持って向かってきた時点で俺は手加減しねえ。顔歪んで歯が折れても恨むんじゃねえぞ」

 

集団の中の女がひとり、小さな悲鳴を挙げて震えあがった。

金属が固いものにぶつかり反響する、耳障りな音。

武藤に睨みつけられた女は鉄の棒をアスファルトに落とし腰を抜かした。

女子の集団の先頭に立つ西浜は、気丈に振る舞い武藤と対峙する。

 

「何なのよ、あなたたちは!」

「そういや名乗ってすらいなかったな」

 

武藤がわざとらしい口ぶりでこちらを見ながら笑う。

俺のせいだとでも言いたいのか。

 

「モノトーン、と名乗っているチームだ。別によろしくしなくていい。会うのも今日が最初で最後になるだろうから、覚える必要もない」

「なっ、モノトーン!?」

 

驚愕の声があちこちから上がる。

慌てふためく連中を置いて、俺はモノトーン側を見渡す。

 

「市宇はどうした?」

 

いないことに気づいてはいたが、騒ぎがひと段落ついた今になり、やつの不在がとてつもない不安要素として胸をざわつかせた。

 

「別件で動いている。そのうち来るだろ」

 

ぶっきらぼうな武藤の返答が更に不安をあおる。

どんなに前向きに考えても楽しい予想はできそうにない。

 

「どうしてあなたたちと凍牙君が――、高瀬さんに頼まれたの?」

 

渋い顔で西浜が俺をねめつける。

後で覚えていろ、結衣がどうなってもいいのかと伝えたいのだろう。

西浜の脅しなど全く意に介さず、武藤は龍華の面々を小馬鹿にしたようににやりと口角を上げる。

 

「さっきの俺らの話は耳に入ってなかったのか。俺たちと凍牙は結衣を挟んで知り合ったんじゃねえ。元をたどれば小学、中学が同じいわば腐れ縁だ」

 

若干脚色が混ざっている気もするが、まあ嘘ではないな。

 

「そんなの……、聞いてないわよ」

「てめえに教える義務はないだろう。というよりお前は黙ってろ。先にこっちを片付ける」

 

武藤はぞんざいな態度で西浜から目を離し、岩井が上に乗り地面にはいつくばる男へとしゃがみ込んだ。

 

「提案がある。お前らにとっての悪い話ではないはずだ」

 

上から目線で有無を言わせない口調。提案と言いながらも武藤が連中の意見を聞く気がないのは明らかだった。

 

「龍華は今日ここでなくなる。モノトーンによって潰されて終わるんだ」

 

周囲がどよめき武藤がこれぞ悪役の見本とでも言える凶悪な笑みを浮かべる。

男は苦々しげに大魔王の顔を見上げた。

 

「龍華の人間は片っ端から消しにかかるつもりでここまで来たんだが、正直言っててめえらの存在は予想外だったんだ。龍華ってのは女のチームだとばかり思ってたんだが、まさか戦力になる野郎が揃っているとはなあ……。ところでお前らって、本当に龍華のメンバーか?」

 

とぼける武藤を岩井の下の男は食い入るように見つめる。

高圧的すぎる態度に隠された提案を察した男たちが、そわそわと互いの顔を見合わせた。

武藤が岩井と瀬戸に目配せをする。両者意思を汲み取り、男たちの拘束を外す。

 

「選ばせてやる。ここで龍華の面子として、潰されたチームに名前を残すか。それともこの場にただ出くわしただけの通行人として、ここを去るか」

 

のろのろと立ち上がるやつらに、モノトーンは警戒しつつも手は出そうとしない。

 

「ひとりでも攻撃のそぶりを見せた時点で、てめえら全員の顔を龍華としてこの街に晒す。選ぶのはお前たちだ」

 

ふんぞり返った武藤の物言いに、誰ひとりとして言葉を発しない。

静寂に包まれた薄暗い空間に、岩井が抑え込んでいた男の舌打ちが大きく聞こえた。

苦し紛れに武藤を睨んだ男は、背を向けて出口へと足を進める。

他の龍華の男たちも、迷いながらそれに続いた。

 

「ちょっと!」

 

モノトーンが乗ってきたバイクの間を縫うように歩いて行く連中に、西浜が焦った声を上げる。

ばつが悪そうに2人の男が振り返るも、別れの言葉ひとつ出さずにやつらは駐車場から消えた。

 

「呆気ない結束だな」

 

馬鹿にしたような口ぶりではない。淡々と感想を漏らした岩井を西浜が涙目で睨んだ。

男たちの足音が聞こえなくなったのを見計らい、武藤は当然とばかりに告げる。

 

「あいつらの顔写真、あとで皇龍に送っとけ」

 

提案もくそもあったものじゃない。

皇龍に顔が割れたとなると、やつらがこの先街で生き辛くなるのは必至だ。

武藤の指示を受けた蔵元が何を今更と言わんばかりに呆れながらもスマホを掲げる。

 

「さっき送ったところだ」

 

仕事が早すぎる蔵元に、武藤は複雑な視線を投げかけた。

 

  ☆  ☆  ☆

 

続く


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