モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 龍華編下2-4

2-4

 

 

「西浜千香といるのは崇司さんに彼女をぶつけるため? そうじゃなかったらごめん。全力で土下座して軌道修正に徹するから」

 

1限から4限を爆睡して過ごし、迎えた昼休み。

眠い目をこすりながらたどり着いた第2体育館の非常階段に、凍牙はいた。

ともすれば5限まで寝続けてしまいそうだったわたしを起こしてくれたマヤには感謝だ。

 

「しなくていい。大方間違ってはいない」

 

登校途中に遠回りして買ったコンビニの菓子パンをかじりながら、後ろから聞こえた声にほっと胸を撫で下ろす。

 

「みっともないが、崇司に対するささやかな反抗のつもりだった」

 

みっともなくはないと思う。そして西浜先輩の位置に凍牙がわたしを置かなかったのがとても嬉しい。口には出さないけど。

 

「皇龍が龍華を潰した後は、大人しく皇龍に取り込まれるつもりだったの?」

「監視されるといったところで、たかだか3年足らずの辛抱だ。崇司のやつに、――皇龍という街の絶対的存在を、崩せるものなら崩してみろとも考えていた」

 

それは凍牙の居場所を根こそぎ奪っていく崇司さんへの挑戦か。

目的はいいとしても、やり方には首をひねってしまう。

 

「刷り込み、入ってない? 自覚してないかもしれないけど、抗おうとしつつも最終的には崇司さんを中心に自分の行動を決めてしまっているよ。崇司さんが苦しむ姿を見て溜飲を下げたいんだとしても、もっと自分を犠牲にしない方法はあるんじゃないの?」

「いや、ことあるごとに口出ししてくるのがうっとうしいだけで、とりわけ崇司に対して憎しみはもうない。最近は必死にもがくあいつを見て、哀れに思ってしまうぐらいだ」

 

言い終えて、凍牙はしばらく黙ってしまう。

上段に座る凍牙を振り返って見上げると、難しい顔をして考え込んでいた。

 

「……違うな。お前の言う通り、刷り込みもあるのだろう。崇司や親には何を言っても無駄だと俺自身が決めつけているから、俺は俺の環境を変えることでしか抗い方を思いつけない。あの家から抜け出そうとして、結局俺は自分から泥沼に浸ろうとしていたのか」

 

自分を客観的に見る目を持った、凍牙はすごい。

わたしが言いたいことを全て伝えなくても、ちゃんと分かってしまっている。

 

「解放されたいってのなら、手伝うよ。家族の問題は難しいけど、龍華のことならわたしたちが協力できる」

 

たくさんたくさん助けられてきた。今度はわたしが凍牙を支える番だ。

 

「そろそろ自由にならない?」

「……なりたいんだろうな。俺は、お前みたいに」

 

そうだね。わたしは自由に楽しく生きてるよ。

弱々しい声だったけど、凍牙の望みはちゃんと耳に届いた。

 

「だったらさ、ものは相談なんだけど――」

 

かねてから組み立てていた計画を、凍牙に打ち明ける。

手はずは整っている。後は凍牙の承諾があるのみだ。

 

 

 

「…………ありえねえ」

「そうかな。円満解決には一番てっとり早い方法だと思うけど」

 

顔を引きつらせる凍牙とは珍しいものを見せられたけど、こちらはそんな大層なことを言ったつもりはない。

要は使えるものは使ってしまおうという話をしただけだ。

 

「……中2の時を彷彿させる手口だ」

「成長してないなんて言わないでよ。むしろ当時より磨きはかかっている」

「なおさらありえねえ」

 

呆れ果てた凍牙は、それでも嫌だとは言わなかった。

 

 

 

さあ。

始めるために、終わらせようか。

 

 

続く


BACK  TOP  NEXT

Loadingこのページに「しおり」をはさむ