モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 龍華編下1-1

1-1

 

 

火曜日の2限目終了後。

次の体育の授業に向けて、わたしとマヤは体育館にある更衣室へと移動していた。

 

「そういえば、三國先輩は何もなかったのかな」

 

今更な気もするが、廊下を歩くわたしたちの前後に人がいないのをいいことにマヤへと問いかける。

教室を出るのが遅かったため、クラスの女子はみな一足先に体育館へ行ってしまった。

廊下や階段で立ち話をする生徒たちがこちらに意識を向けてこないかを注意しつつ会話は続く。

 

「翔吾が? 何かあったかしら」

「土曜日のこと。わたしはありがたかったけど、皇龍にとって面白くないことを三國先輩にさせてしまったわけだからね。あの後問題になっていたら後味が悪いかなあと」

 

わたし自身が三國先輩の名前を出さなかったとはいえ、彼が自分で皇龍に申告したかもしれない。

もしもこのことで三國先輩が非難を受けるようなら、マヤにも申し訳ない気がしてしまう。

ああ、そのことなら……とマヤはわたしの心配をよそにあっさりと打ち明けた。

 

「話は聞いたけど、結衣も皇龍の人たちに翔吾のこと何も言わなかったでしょう。皇龍はその後どうやって水口君の事態を結衣が知ったかは調べなかったみたい。だから翔吾も自分から名乗り出なかったと言っていたわ」

 

マヤの恋人は予想以上にしたたかな男だった。

 

「ほとぼりが冷めたころに、明良さんには世間話ついでに打ち明けるかもしれないって。翔吾は全く気にしてないから、結衣も不安にならなくても大丈夫よ」

 

その時になって野田先輩が頭を抱えている姿が安易に想像できる。

野田先輩がどんなに文句を言っても三國先輩は全く反省の色を見せないのだろうな。

 

「何にせよ助かったよ。三國先輩には感謝してる」

 

恋人への謝辞に、マヤは嬉しそうにはにかんだ。

 

「結衣も早く水口君と仲直りできるといいわね」

 

仲たがいなんてしていない。というのにはいささか無理がありすぎるので、くだらない意地は口に出さず飲み込んだ。

出来ることなら、凍牙とまた前のような関係に戻りたい。

第二体育館に凍牙が来なくなってから、ずっと切望していた。

 

――戻る。という言葉には語弊があるのかもしれない。

 

龍華のことや崇司さんという存在がなかったとしても、凍牙とわたしが今のような状態に陥る要因は全て消えたわけではない。

凍牙と以前のように話せるようになっても、以前と同じままだったら、再びこの現状を繰り返しかねないのだ。

わたしは凍牙との仲に安定を望んでいる。

安定のためには、どうしても進展が必要だ。

それがわたしたちの関係性から来るものなのか、環境の変化によってもたらされるものなのかは今ひとつ掴みかねているけど。

第一この考えは凍牙の意思を完璧なまでに無視してしまっているし、わたしの独りよがりな望みに過ぎない。

 

「最近わたしの頭の中ってストーカーみたいになってしまっている気がする」

 

考えることが凍牙のことばかりとか、かなり重症なんじゃないのか。

勉強のこと、年末の過ごし方と、悩みの種はいくらでもあるのに全てがどうでもよくなってしまっている。

 

「水口君なら、迷惑なら迷惑だって遠慮なく言ってくるでしょうし、それまでは結衣の思うままに動いてもいいんじゃないかしら」

「この前しばらく近付くなって言われた」

 

体育館の女子更衣室前。

中に入ろうとすると、すれ違いに着替えを終えたクラスメイトが数人ドアから出てきた。

更衣室内にも人はいて、わたしとマヤの会話は一時中断される。

運動着に着替え終わるころ、授業開始のチャイムが鳴った。

 

「しばらくって……。二度ととか、一生とか、そんな言葉を使わないあたり水口君もいじわるね。わたしが結衣だったら期待してしまうわ」

 

体育館で集合するクラスメイトに合流しようと2人で進んでいる時、チャイムの余韻に紛れてマヤが呟いた。

うん。マヤの言うとおりだ。

わたしはきっと凍牙に期待してしまっているのだろう。

 

 

続く


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