モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 龍華編上2-2

2-2

 

小規模かつ少数精鋭なチーム。

同志としての団結はあるが、基本的にチーム内で個々の馴れ合いはしない。

発足の目的は皇龍から一線を置くことにある。

皇龍に所属できるだけの実力を持ちながらも街で無所属を貫く者たちが、生活の中で皇龍からの干渉を防ぐためにひとつの組織を作った。

すなわち龍華とは皇龍という大きな集団に属することを拒んだ者の集まり。

自由のためのチーム――龍華。

凍牙が籍を置くのならきっと龍華はそんなところなのだろう。

 

――などと勝手に想像していたわたしが馬鹿だった。

 

 

 

月曜日。休み時間を利用してクラスの榎本君に龍華について聞いてみた。

榎本君は龍華という単語に渋い顔を示したが、昼休みに時間を取ると約束してくれた。

どうやら不確定要素が多すぎて人前で話すのははばかられるらしい。

朝のホームルームが終わった後で同じことをマヤにも聞いている。

マヤは龍華に対して最近できたチームという認識しかなかったらしく、どうやらそこに凍牙が関わっていること自体を知らないようだった。

凍牙と龍華に関わる情報が思ったより学校に浸透していない。

柳さんがわたしにガセネタをつかませて楽しんでいるのかとも考えられたが、それにしてはやり方が安直すぎるとすぐに否定する。

嘘ならもっと巧妙に仕掛けてくるだろうし、すぐに分かるドッキリなんて面白みもない話をしてくるわけがない。

高みで見物しているだけでも十分に楽しめることが起ころうとしている。

そう判断したから、柳さんはわたしに龍華と凍牙の繋がりを話したとするのが妥当だろう。

 

「だったとしてもいい加減にわたしを手駒に使うのは止めてほしいんだけど」

 

愚痴ってはみるも、分かっていながら柳さんの期待通りの行動に出てしまうわたしもわたしなのだろうな。

 

「は?」

「気にしないで。ひとり言だから」

 

昼休み、教室で軽く弁当を食べて向かったのはいつかの第二科学室だった。

榎本君は先に到着して、大机にもたれながらメロンパンをかじっていた。

向かい合う位置にある大机に座って、乗せられていた丸椅子は足置きに使いつつ聞く体制を作る。

行儀の悪さを咎める人はここにはいない。

メロンパンを食べ終えて紙パックのジュースで一息ついた榎本君は、龍華について教えてくれた。

 

 

「――要するに龍華ってのは口だけが大きい、皇龍にとって取るに足らないチームってことだよね」

「まあ早い話がそういうことだな」

 

頷く榎本君に嘘は見受けられない。

龍華とはこの高校にいる2年の女子が作ったチームでメンバーのほとんどが女性であるが、俗に言うレディースのような集まりではないらしい。

理想論ばかりを唱えて大口たたいてはいるものの、いまいち実行力に掛けるチームであるため皇龍もそこまで気に留めていない。――ひとつの点を除いて。

 

「どうしてそんなところに凍牙の名前が出てくるのさ」

「知らねえよ。俺だってこの先水口を仲間に引き込む予定ってのを、龍華のやつが先走ってすでに仲間になったような言い方をしてるんだと思ってたんだ。というより水口については高瀬のほうが詳しいんじゃねえのか? 仮にも付き合ってんだろ」

「もうとっくに別れてるよ」

「はあ!?」

 

焦る榎本君の様子から、皇龍全体でまだこれを知らない人が多いのだと分かった。

マヤから三國先輩を通してとっくに広まっているものだと思っていたのだけど。

 

「じゃあひょっとして、水口がお前じゃない女と街ふらついてたってうわさは……」

「真実だね。わたしも目撃した」

「まじかー!」

 

額に手を当てた榎本君がうなだれる。

 

「それだと水口が本腰入れて龍華に加担してるって話の信憑性も上がってきてしまうぞ」

「皇龍は直接凍牙に確認してないの?」

「今のとこはな。何度も言うが、龍華についてはそこまで危険視してねーんだよ。皇龍は」

 

榎本君の大きなため息は5限目の予鈴にかき消された。

 

「龍華ははっきり言ってどうにでもなるチームだが、水口個人はそういうわけにはいかない。下手したら水口が龍華を使って皇龍に牙を向ける可能性だって出てくる。場合によっては皇龍が水口を街の敵とみなすこともあり得るぞ」

「そ、教えてくれてありがとう」

 

苦悶に満ちた顔をする榎本君に軽く言って大机から飛び降りる。

おかしな事態であるだけに、物事を断定するにはまだ情報が足りない。

 

「高瀬は、モノトーンなんだろ?」

「どこに所属しているかと聞かれたらそう答えるよ」

 

実際チームの活動にはほとんど参加していないけど。

 

「……水口が皇龍の敵になった時、モノトーンはどう出るんだ?」

 

この段階で決めつけやがって、とは決して口に出さない。

 

「どうもしないよ。だいたい拠点が離れすぎてる」

 

あくまでモノトーンは、だけど。とは心の中で付け足しておく。

榎本君と一緒に第二科学室を後にする。

うわさをすれば影とはよく言ったものだ。

教室へ向かうための階段で、同じく階段を上る凍牙の背中を見つけた。

隣にいる榎本君が途端に緊張する。

踊り場で凍牙が体の方向を変えた。下から追う形になっているわたしと目が合い、榎本君の肩がびくつく。

 

「龍華ってチームに入ったって聞いたけど」

 

すぐに視線をそらした凍牙に言った。

 

「本当なの?」

 

足を止めた凍牙がわたしを見下ろす。表情は読めない。

 

「おい」

 

小声で榎本君が止めにかかるが、構いはしない。

憶測だけでは今以上の真実を知ることはできないだろうから。この際本人に聞くのが手っ取り早い。

 

「……だったらなんだ?」

 

冷たい声が突き刺さった。

苛立ちのにじむ凍牙に食いついたのは榎本君だった。

 

「お前、本当に皇龍を敵に回すつもりなのか!?」

「てめえとは話してねえ」

「んだとこら」

「うるさい感情的になるなら出てこないで」

 

凍牙に向かっていこうとした榎本君がこちらを見て口の端を引きつらせるが、そんなものは知ったことではない。

もはや睨みあいと表現してもおかしくないぐらいに、凍牙と視線をぶつけ合う。

心の内を探りたくても、こいつはそう簡単にのぞかせてはくれないだろう。

 

「これまで爪も牙もむき出しにしてきたやつが、今更隠そうとしたところで何の意味も成さないって、柳さんが言ってた」

 

凍牙の眉間のしわが微かに深くなる。

 

「わたしもそう思う」

 

5限目の始まりを告げるチャイムが鳴った。

口を閉ざしたまま、凍牙は階段を上っていく。

この様子ではどんなに聞いても正直な返答は貰えないだろう。

どうしたものか。

 

「今のって、どういう意味なんだ?」

 

共に進む榎本君が首をかしげる。

 

「そのまんまの意味だよ。あのさ、今日の夜にお邪魔しますって、櫻庭先輩に伝えておいて」

「へ? お前何する気だ」

「何も。ただ世間話をするだけ」

 

皇龍の上層部なら、もっと詳しい情報を持っているかもしれない。

それをわたしに教えてくれるかは定かでないが、聞いてみる価値はあるはずだ。

 

 

続く


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