季刊更新

水守の狼と花守の猫 2018.spring3

水守の狼と花守の猫

2018.spring

 

3.


 

雲ひとつない星空の下

 

みなもに浮かぶ月を眺めながら 黒猫が話し出しました

 

わたしは森をはぐくむ役目と共に みっつの種を持ってうまれてきた

 

しかし生を受けた土に種を宿そうとしたとき その地をこわい生き物が通り過ぎて 土を踏み固めてしまった

仕方なく生まれた場所を後にして 種を植える場所を求めたくさんの土地をさまよったけれど

世界はどこだって水と土が汚れてしまっていて どこに行ってもこわい生き物ばかりだった――と

 

役目を果たせず黒猫が困り果てていたとき 空を通りかかったかみなりが教えてくれたそうです

 

 

ここよりずっと遠くに 誰もが記憶することをやめてしまった不毛の地がある

生き物たちが消え去ったそこに いとなみを忘れてしまった水のみなもとを見つけたと

 

 

ときどき出会えば大きな音を立ててからかってくるいたずら好きのかみなりを 黒猫はあまり好きではあるませんでした

でも あてもなく彷徨う今よりも ほんの少しでも可能性があるのならと かみなりの言葉を信じてここまで歩いて来たのです

 

黒猫は狼に頼みました

 

泉のほとりに わたしの種を植えさせてほしい

ここならきっと美しい森がはぐくめる

 

 

狼は黒猫の頼みを受けるべきか悩みます

 

泉を守ることこそが狼の役目

荒れた大地が再び森になれば またやつらが押し寄せてくるだろう

そしてやつらは森の生き物を殺し 泉を汚す あのときのように

 

悲しそうに伏せられた狼の顔を 黒猫が覗きこみます

 

狼以上に不安な面持ちで 黒猫が聞きました

 

種は 植えてはいけないの?

 

森ができるのは いいことばかりではない

 

悪いことがあるの?

 

こわい生き物がやってくる

 

 

ぱちくりと瞬きをした黒猫は きょとんと首をひねります

 

狼は黒猫に語りかけました

ここにかつて存在した 恵みの森の末路を

切り倒され 焼き払われた樹木の悲鳴

自分たちと同じ 役目を持って生を受けたものたちは なすすべもなく消えてしまった

羽根のある生き物はあっさりとこの地を捨てた 

足のある生き物は次第に小さくなる森に行き場を失い徐々に数を減らし

最後はこわい生き物に押し固められ連れて行かれたのだ

 

それをまた繰り返すのかと 狼は黒猫に問いかけます

 

 

黒猫は涙を流して 寂しそうに 悲しそうに やりきれない思いを吐き出しました

 

わたしの種がこわい生き物を呼び寄せるというのなら わたしは こわい生き物を導くために生まれてきたの?

 

狼は 否定も肯定もできません

 

 

続く


BACK  TOP  NEXT

Loadingこのページに「しおり」をはさむ