季刊更新

水守の狼と花守の猫 2018.spring1

水守の狼と花守の猫

2018.spring

 

1.


 

ここよりずっと遠い世界

岩戸砂ばかりの大地の真ん中に 灰色の狼が守る小さな泉がありました

 

灰色の大きな狼は泉のほとりにある 中身のくりぬかれた岩を家にして

ずっとずっと 何百年もの間 この泉を守ってきました

 

泉とともに年を重ねた狼は かつてこの大地は緑にあふれ 生き物たちがたくさんいた大樹の森であったことを憶えています

 

それが いつからか

 

たしか 見慣れぬ生き物が森を歩き出したころからでしょうか

だんだんと 外の危機をいち早く知ることのできる鳥たちが森を去りはじめ

そして

木々が 動物たちが 春の訪れをあきらめた年に

知らない生き物の放った炎が いつくしまれた森を今の大地へと変えたのです

 

緩やかに育まれた森の 突然の変貌に戸惑いながらも 狼は大切な泉を必死になって守りました

 

泉を血で汚す 怖い生き物を追い返し

大声で叫びながらせまりくる炎を威嚇して

透明だった水が泥で濁り 魚が消えてしまっても 狼は世界が自分に与えた役目を果たしたのです

 

やがて 森を焼いた炎とともに 怖い生き物はこの地を去っていきました

 

残されたのは 黒く焦げた大地に 水たまりのようになったかつての泉と 灰色の狼だけ

 

それからずっと 泉を守る狼はひとりぼっち

 

雨が降っても 木のない大地は水をためられず

水はすぐに泉から流れて 天へと去っていきます

 

これじゃあとても 動物たちはこの地に生きることができません

希望のない大地に 鳥が種を運ぶこともなく

ずっとずっと 途方もない時間

狼はひとりでした

 

 

続く


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