モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 モノトーン編下4-6

4-6

 

わたしに起こった出来事に、母は泣いた。

涼君も苦い顔をして、心配をかけてしまったことをわたしは何度も謝った。

体育館倉庫で一夜を明かしたのは、不運の重なった不幸な事故。

わたしの主張を学校側は鵜呑みにして、先生からの聞き取りは簡単なもので終わった。

それから学校に行かず涼君のマンションに引きこもるようになったわたしを、母は時間を見つけては進学後にひとり暮らしをするための、住まい探しに連れ出した。

母と不動産会社を回るっているときは、色々なことが忘れられてた。

同時に、特別嫌いというわけでもないのに家族から離れようとしている自分の弱さを思い知らされる。

母はわたしになにも聞かない。ただ、見知らぬ土地を二人で歩く中、そっと手を握ってくれた。

水仕事で荒れた母の手はとても暖かくて、家にいるときは気まずくてまともにできない会話が、その時はなんの違和感もなく続けられた。

当初物件探しは合格発表後に急ピッチで行う予定だった。

それがこんなにのんびりと出来たのだから、学校に行かないのも悪いことではない。

高校進学後に住むマンションはほどなく決まり、引越しの日はわたしの希望で卒業式と被せる。

卒業式の次の日が合格発表だったが、もしも落ちた時のことは何も考えず入試まではいつも以上に必死に勉強した。

 

3月14日。

引越しが無事終了し、その翌日、わたしは志望校の合格を確認する。

 

今に至るまでを振り返れば、あの時はなんて馬鹿な真似をしたんだと自分で思うこともある。

あの時、もっと言葉を尽くしていたら。

意地を張らずに素直になっていれば。

仲間に相談していたら……。

たらればの話はいくらでも出てくる。

そうやって心を開けなかったのは結局のところ、わたしが幼すぎのだ。

 

「わたしが勝手にやって、勝手にみんなの前から消えただけなのに。今でも仲間は心配してくれて、会いに来てくれた」

 

奇跡のような話だと思う。

 

「本当に、みんな優しすぎるんだよ」

 

きっとこれが、最後のチャンスだ。

ここで逃げたらわたしは一生仲間のもとに戻れない。

春樹と綾音にも、再び言葉を交わすことはできなくなる。

マヤはあいづちを打ちながら、ずっと静かに話を聞いてくれた。

 

「おかしなこと言うよ」

 

ここまで話して、自分の中でようやく気付けたことがあった。

 

「春樹に使われるのは、わたしにとって幸せだった。期待されることに自分の存在意義を感じていたんだ。頼ってくれるのと同時に、わたしは春樹に守られてた。ここにいていいんだって言われているみたいで、春樹の隣は居心地がよかった。わたしはずっと、春樹の片腕でいたかったんだ」

 

そりゃあ綾音も嫉妬するだろう。

春樹の最も近い位置に居続けるのを望んだのは、紛れもなくわたしだ。

だから言える。

 

「さっきマヤから綾音がアークに来たって聞いた時、どうしようもなく嫌になった。……わたしは、綾音に嫉妬したんだ」

 

本来ならそういった交渉の役目はわたしがするものだった。自業自得のくせに、守られている立場だった綾音が動いて焦っているなんて、見当違いにも程がある。

理不尽で醜い感情に心が埋め尽くされそうだ。

こんな思いで、仲間に会っていいはずがない。

わたしこの感情はまた争いの種にしか成り得ない。

 

 

続く


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