モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 モノトーン編下2-4

2-4

 

 

「春樹は有希がこの街に来てると思ってるよ」

「あ、そう」

「春樹自身が直接関係していることだからね。結衣に会いに行くと俺たちが進言したところで、春樹もさすがに指示を出し辛いだろ。こういうのは事後承諾がちょうどいい」

 

リーダーそっちのけの計画か。

話の具合からして有希も共犯なんだろう。

組織としての縛りも締まりもなんにもない。

こいつらは昔と全く――。

 

「変わってないだろ?」

 

心を読まれたかのごとく、成見が笑って言った。

悔しいが、頷くしかない。

 

「仕事はちゃんとこなすよ。それにちょっとした筋の情報なんだけど、皇龍には柳先生寄りの人がいるみたいだしね。そういうところには有希が誠意を以って交渉するより、俺ぐらいがちょうどいいだろ」

 

そうかもしれないが、櫻庭先輩と成見の舌戦はあまり見たいとは思わないな。想像しただけで胃が痛くなる。

その場に立ち会うであろう皇龍の誰かには心の中でエールを送っておくとする。

話を終えて、成見とともにカプリスの店内に戻った。

静さんの言った通り土曜日の今日、朝の店内は閑散としていた。

いるのは窓際の席でくつろぐ凍牙と、カウンターにお客さんがひとりだけ。

……この人も、お客さんのはずだ。

コーヒー片手にカウンターで新聞を読んでいたのは、吉澤先生だった。

わたしに気付いて顔を上げたが、毎度のことながら不機嫌な表情をしているなこの人は。

成見、凍牙、吉澤先生――。

一見ここに大した繋がりもないのに、わたしにとっての知り合い率が異常に高い空間だ。

 

「遅せえぞ。俺を待たすんじゃねえ」

「……おはようございます」

 

口ぶりからして、吉澤先生の用事はわたしか。

 

「知り合い?」

 

後ろから顔を出した成見が吉澤先生について聞いてきた。

 

「吉澤先生って言って、柳さんの御友人に当たる人だよ」

「普通に自分のクラスの担任だって言えばいいだろうが」

 

紹介の内容が気にくわなかったのか不服を示した吉澤先生に、成見は納得したかのごとく何度も頷いた。

胸の上で床と水平に広げた左手に、右手のこぶしをぽんと乗せる。

 

「ひょっとしなくても、倖龍さん?」

「正解。よく知ってたね」

「そりゃあ皇龍のことはこっちでもいろいろ調べてるよ。倖龍さんは有名人だしね」

「高瀬、てめえの周りにはこういうやつしかいないのか!?」

 

怒鳴る吉澤先生に、凍牙が複雑な顔をした。

あれは絶対、成見と一緒にするなって思ってるよ。

 

「人のこと言えませんが、あんまりむきにならないほうがいいですよ。こいつ、根っからの柳さん属性ですから」

「……そういうことは先に言え」

 

成見の存在自体を無視した吉澤先生は、わたしに隣の席に座るよう指示する。

一方の成見はというと、いつの間にか静さんから紅茶を受け取り、凍牙の向かいで優雅なティータイムを演じていた。

 

「右手を出せ。とっとと終わらせるぞ」

 

言われた通りにすると、吉澤先生は捻挫で腫れた手首に触れて舌打ちした。

さっきまで氷嚢を当てていたため、患部は冷たくなっている。

 

「ちゃんと冷やしてはいるみたいだな」

「常にはさすがに無理ですけど」

 

静さんに言われなかったら確実に放置したいただろうけど、これは言わないでおこう。

足元の紙袋から吉澤先生が何かを取り出す。

透明のプラスチックに入った黒いゴムバンドのような物体。

パッケージの説明書きは英字だった。

 

「そんなにひどいんですか?」

 

乱雑にプラスチックを開けていく吉澤先生に、成見が横から口を出す。

 

「骨までは異常がないと聞いているが、捻挫は放置すると後に響くからな」

 

言いながら、黒いバンドの穴のあいたところをわたしの右手の親指に通し、手首をきつく締めてマジックテープで固定した。

 

「歯を使えばひとりでも付けられるだろ。日中はちゃんと固定しとけ。下手に動かしたら靭帯が伸びきったままになるぞ」

 

先生がわたしに白い紙袋を渡してきた。

 

「湿布と塗り薬だ。面倒でも夜はちゃんと付けとけ」

「これのためにここまで来たんですか?」

「一応のけじめだ。あほがあほなことやらかしたのは俺の耳にも入っている」

 

だめだ、それを今言われるのはまずい。

ぽろりとこぼされた内容に、恐る恐る成見をうかがう。

成見はティーカップをソーサーに置いただけで、こちらを見ようともしなかった。

 

 

続く


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