モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 モノトーン編下2-3

2-3

 

 

さっき成見も言っていたが、仲間とこうして向きあうのは実に半年ぶりのことだ。

久しぶりだというのに気まずさの欠片もないのは、相手が成見だからだろう。

他の仲間だったらここまで自然に会話ができず、お互い言葉を選びすぎて沈黙してしまうのが簡単に予想できる。

 

「ああ、先に言っておくけど、俺を尾行しているやつらは駅に着いたときに締めて来たから。この場所をおかしなやつらに知られる心配はないし、そこは安心していいよ」

「……なんの話だ?」

 

安心より前にそんな不安事があることすら初耳なのだが。

 

「あれ? 知らなかったか。俺ら、というよりも早い話モノトーンのメンバー全員、今ちょっとストーカーにあってるんだよ」

「……そこには菜月や綾音も含まれているのか?」

「菜月に関しては否定できないけど、不届き者に手出しされるようなへまはしないよ。綾音はモノトーンに入ってないし」

「どういうことだ?」

 

モノトーンを立ち上げたのが春樹なら、綾音も関係者としてそばにいるはずだ。

わたしが春樹たちから離れている間に、みんなの関係性にも変化があったのだろうか。

いぶかしげに尋ねれば、成見が優雅にふわりと笑う。

 

「綾音はモノトーンが発足する前に、春樹と別れた」

「はあっ!?」

 

なぜそうなる。

驚くわたしをものともせず、成見はさらっと続けた。

 

「という風に周りには見せかけているから、今のところは大丈夫だよ」

 

それを先に言え。

こっちの反応を見て楽しんでやがるなこいつ。

恨みがましく睨んだところで、成見は全く気にしない。

 

「菜月を泣かせたんだ。これくらいの意趣返しは当然だろ?」

 

してやったりな顔で言い放たれ、ぐうの音も出ない。

そもそもこいつらの前から勝手に消えたのはわたしだ。責められることはあっても、文句を言う資格なんてどこにもない。

黙り込んだわたしに、成見はため息を吐き出して長い足を組み直す。

 

「俺たちだって反省してるよ。喧嘩両成敗、当事者以外は基本不干渉がうちの暗黙のルールだけど、さすがにあの時は何かしら介入すべきだった」

 

あの時が示す苦い記憶に、思わず顔をしかめてしまった。

 

「正直言うと、いつかは結衣と春樹と綾音の間に亀裂が走るんじゃないかって、そんな気はしていたんだ。さすがに結衣がこんな手段に出たのは予想外だったけどね」

 

成見は水の入ったグラスを手に取る。

グラスの淵に口をつけるところを、わたしはじっと見つ目ていた。

 

「俺は綾音の葛藤が分からないわけじゃないよ。友情と恋情、どちらか一方を選べない春樹の気持ちもよく知ってる。もちろん、俺たちから離れてでも2人の平安を保とうとした結衣の心情も察するよ」

 

成見はグラスを緩く振って中の氷を回しながら苦笑した。

 

「春樹と綾音は答えを出した。だから後は結衣だけだよ。急かすつもりもないし、あの2人なら何年でも待たせておけばいいから、気長に考えなよ。まあ俺個人としては、さっさと答えを見つけて会いに来てほしいってのが本音だけど」

 

急かさないと言いながらも、成見はためらうことなく告げる。

 

「何より菜月が会いたがっているからね」

「それが本心だろう」

「当たり前。菜月も相当頑固だからねえ。今日も一緒に来るかって聞いたけど、決着が付くまで会わないって言われたよ。その代わり、次にあったときは覚悟しろって伝言は預かったから」

 

……菜月さんや。

 

「菜月の説教は結衣限定で恐ろしく長いもんね。勝手にいなくなったこと、延々と説き伏せてくるんだろうねえ」

 

お前はとことん楽しそうだな。人の苦行がそんなにおもしろいか。

 

「大切に思う人が苦しんでいる時に、何も話してくれないのは辛いよ。苦しんでいることに気付いてやれず、あとになって思い知らされるのは、もっと辛い」

 

それは菜月の心情なんだろう。

悔しいけれど、認めざるを得ない。

菜月のことに関しては本当に、成見は一途だ。

 

「今更の確認だけど、結衣は俺たちと完全に関係を断とうとしたわけじゃないよね」

「それはない」

 

これだけは迷わずにきっぱりと言えられた。

 

「うん。だったらいいよ。結衣の口からそれが聞けたら、今のところ俺は満足だから」

 

話は終わったとばかりに立ちあがって、成見はのびをする。

 

「俺たちは気長に待つよ。さすがにこれだけ離れていたら、冷戦直下のブリザードに巻き込まれることもないだろうし。近いうちに邪魔者の始末も付けるから、思う存分気兼ねなく悩めばいいよ。行き詰ったら話を聞いてくれる人も、ちゃんといるみたいだしね」

「……具体的に邪魔者とは?」

「ん? うちとこの街の間にいるやつらだよ。いい加減ちょこまかとうっとうしいし、さっそく今からそのことで皇龍と話を付けに行ってくるから」

 

ああそうなのか気を付けてと、流してしまいそうなほど成見は自然に言い切ったが、これはおかしい。

座ったままの状態で、目の前に立つ細身の優男を見上げる。

 

「どうして皇龍との繋ぎ役に選出されたのが、有希じゃなくてお前なんだ」

 

皇龍との関係を平和的にしようものなら、ここにいるのは有希のはずだ。

間違ってもこんな満面の笑顔で毒を吐く、ひとをからかうのが生きがいのようなやつが引き受けていいものではない。

有希に外せない用事でもあったか。それともまさか、モノトーンは皇龍内部を引っかき回したいのか。

成見はさも当然とばかりに口を開く。

 

「有希は昔っから結衣に甘いからね。俺みたいに切り出せなかったら会いに来た意味がなくなってしまう」

「ちょっと待て、その言い分だと皇龍のところに行くのがついでのようになってるぞ」

「まあ、それは否定しないかな」

「否定しろ! 春樹は今日ここにいるのが成見だってことは知ってるのか?」

 

あまりの自由っぷりにモノトーンという組織自体が不安になってきた。

 

「もちろん」

 

大きく頷いたのち、成見は告げる。

 

「知るわけがない」

 

いいのか。モノトーンは本当にこれでいいのか。

 

 

続く


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