モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 モノトーン編中4-1

4-1

 

 

考えれば考えるほどに空回りする頭を持て余したまま、世間でいうところのお盆最終日、8月16日を迎えた。

バイトでのんびりできるのも今日が最後だ。

ここのところ昼過ぎのバックルームで待機している時間も、夏休みの宿題に手をつける気になれずにひとりで延々と考える日々が続いている。

周辺の会社が動き始める明日からは、店もまた忙しくなってくる。そうなるとぼんやりしているわけにはいかない。

仕事のときだけでも気持ちを切り替えないと。

この日、数日ぶりに凍牙がカプリスに現れた。

凍牙のお兄さんに会った日以来の再会だ。

 

――逃げるな。

 

顔を見た途端、その言葉が頭の中で再生された。

そうだよ。ものすごくわたしは逃げ出したい気分だ。

やけになって出かかったやつあたりは寸前のところでかみ殺した。

 

「辛気臭い顔になってるぞ」

「だろうね。自覚はあるよ」

 

指摘されて開き直って、そんな自分にまた落ち込む。

明らかにおかしいわたしに対して、今まで何も言わず自然に接してくれていた静さんでさえ、この時ばかりは苦笑していた。

バイトが終わって、2人で繁華街へと歩く。

凍牙とわたしの間で無言は頻繁にあるけれど、ここまで空気がぎすぎすしているのは初めてかもしれない。

原因はわたしか。

 

「寝れているのか?」

 

前方一点集中を崩さないわたしに凍牙の声が降り注ぐ。

 

「ご想像にお任せする」

「ああ、寝てないんだな」

 

その通りだよこのやろう。

言い出したら止まりそうにないので、口をへの字に曲げるだけにした。

根をつめたところで一向に出ない答えに焦って、どうすることもできずにもがいているのがわたしの現状だ。

ひょっとすると、分からないのではなくて、分かりたくないだけかもしれない。

それを考えると、頭の血が一気に下がる感覚がする。

逃げたいと、認めたくないと自分の弱気な部分が叫んでいるのは知っていた。

 

「津月にでも相談したらどうだ。色恋沙汰に関してはお前よりはるかに先輩だろ」

「そうかもしれないけど」

 

マヤに話さないのは、わたしのくだらない意地だ。

過去の失態を赤裸々に打ち明けようにも、なけなしのプライドが邪魔をする。

自分の事情をいちから伝える勇気がない、だから言えない。そして相談できない。

仕方のないことだと自分に言い聞かせ、泳がせていた目線を再び前方に向ける。

今は凍牙との交際を偽装する時間だ。

 

「取り繕わずにへたってろ」

 

心情を見透かしたように指摘された。

 

「見ていてイライラする」

「……それはほんとにごめんなさい」

 

声が波打ってしまった。

与えられた役目すら、わたしは満足にこなせないのか。

自分の無力さにうなだれたけど、同時に肩の力が自然と抜けた。

 

「考えるのって、辛い」

「だろうな」

 

弱音を受け入れてくれただけで、馬鹿みたいに安心してしまった自分に気付く。

突き詰めるのは楽じゃないけれど、ここで目をそらしたら一生わたしの中にわだかまりが残る。

後ろめたい気持ちで、みんなに顔向けなんてできない。

考えあぐねて、疲れきっていることは認めよう。

自覚して、またそこから頭を動かせばいい。

定番のコースとなりつつある、駅のロータリーの前で赤信号により足を止めた。

ちょうど電車が来た後なのか、夕暮れ時の駅はいつも以上に人が多い。

待ち合わせの車が、バス停のエリアにまで停車していた。

 

 

続く


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