モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 モノトーン編中2-4

2-4

 

 

マヤは苦笑しながら言った。

 

「その分、翔吾からの電話には欠かさず出ているわ。翔吾もアークに詰める時間を長くして、休みを多い目にもらったり、そういう工夫はしてもらえるみたいだし」

 

三國翔吾のモチベーションが下がることについては否定しないのか。

 

「例年通りだと、夏休みが終われば街での問題ごともそう頻繁に起きなくなるらしいから、それまでの我慢よ。わたしとしてはアークのことより、結衣と水口君が付き合ってるって話のほうを詳しく聞きたいのだけど」

 

そんなに目を輝かせて期待されてもこちらは何も出せません。

 

「利害関係の一致による上辺だけの交際だよ」

 

これ以上言えることなんてないし、むしろこうなる原因を作ったあの女の人のほうが話のネタとしては優良なくらいだ。

 

「そもそもその話はどこから」

「櫻庭先輩が教えてくれたわ」

 

チャラチビめ。筒抜け具合が半端じゃないな。

 

「凍牙に付きまとっていた小野寺雫が別の男に目を向けたら、わたしたちの協力体制も終わり。それこそこんな付き合い方なんて、夏休みぐらいしかできないよ」

「ふうん」

 

不満そうだね。どうあってほしいかなんて希望は実現不可能だろうから聞きはしないけど。

 

「こっちはマヤがわたしに会いに来るのを、彼氏さんが許してくれたことのほうが話題にしたいところだよ」

「えっ、どうして?」

 

きょとんと、マヤは目を丸くした。

わたしの言葉は心底意外だったようだ。

 

「彼氏さん、今日マヤがわたしに会いに行くことは」

「知っているわ。何か問題でもあるの?」

 

問題という問題でもないし、何かが起こっているわけでもないが。

 

「自分は一緒にいられないのにって、彼氏さんに嫉妬されそうだから」

「それはないわ。むしろアークに居辛いなら、結衣を引っ張って遊んでおいでって勧められるぐらいよ」

 

……予想外すぎる。

いやいや、三國翔吾がマヤ至上主義者ならそれぐらい言って当然か。

向こうはわたしの事情なんてお構いなしだろうし。

皇龍総長に頭を下げてまでマヤの友達でいたいと訴えたわたしが、マヤを傷つけることはないと考えたか。その通りだけど。

三國翔吾、予想以上に頭を回してくるな。

そして今のところ、わたしは皇龍の敵にはならないだろうとあちらさんは判断しているということか。

良心につけ込まれているようで、動きづらいことこの上ない。

 

「……わたしは、マヤに言ってないことがたくさんあるよ」

「どうしたのいきなり」

「人に話すまでもないってわたし自身は判断していることばかりだし、これからも言うつもりはない。これに関してはただのわたしの意地とプライドの問題だ。だけど――」

 

わたしの勝手な事情にマヤを巻き込むのは避けるべきだ。

 

「もしも彼氏さんがわたしに会うなと言ったら、そこは大人しく聞きいれたほうがいい。わたしは自分のためにしか動こうとしないけど、マヤの彼氏さんは、マヤのために口を出すんだろうから」

「……なんの予言かしら」

「予言じゃなくて助言だよ」

 

氷が溶けて薄くなったオレンジジュースに手をつける。

ひとくち飲んでグラスをテーブルに戻す間、マヤは動かなかった。

 

「よく分からないけど、これから先、結衣と皇龍が敵同士になってしまうかもしれないってこと?」

「わたしは皇龍に入らなかったのだから、その可能性はゼロじゃないってこと。そうなった場合、わたしと仲良くしてたってだけでマヤに変な飛び火があると嫌だから、彼氏さんの指示に従ったほうがいいってだけ」

 

これをマヤに言うのは、ただのわたしの自己満足だ。

本気で皇龍を敵に回すなら、マヤを利用するぐらいしないと渡り合えないだろう。

分かっていながらその道を断つのは、ただの甘えとそうなってほしくないという自分勝手な願望があるからだ。

マヤは困った笑みを浮かべる。

 

「どうせ結衣は、自分で決めたことはわたしや他の誰にも言わずに実行しちゃうんでしょう。わたしの止めても、嫌だも、聞いてくれないことぐらい分かってるわ」

 

うん。そうだね。

その通りだよ。

 

「だから、お願いとわたしの望みだけは今の段階で伝えておくとするわ。わたしは結衣と皇龍が争ってほしくないし、そうならないように両者が動いてくれることを希望するわ」

 

……止めてそんなことしないで、敵になるなんて言わないでって。すがり付かれるよりも何十倍のプレッシャーをかけてくるな。

 

「愚痴を言いたくなったらいつでも呼んでちょうだい。聞き手にぐらいはわたしにだってなれるから」

「……言うことが大人だ」

 

何言ってるの、とマヤが笑う。

 

「翔吾との仲が充実していて、自分に余裕があるから言えることよ。そうじゃなかったら不安なことは少しでも拭い去ろうと、結衣に詰め寄ってたかもしれないし」

 

なるほどど納得していると、ドアがノックされた。

ソファから立ってドアを開けると、静さんがそこにいた。

手に持つトレーには、カットされたシフォンケーキと紅茶のセットが3人分。

 

「虎晴くんが戻ってきたの。店番はするから休憩しておいでって。わたしも混ぜてもらってもいいかしら」

「ええ、もちろんですけど。柳さん、早かったですね」

「本当にお店の鍵を閉めただけでこちらに帰ってきたみたいよ」

 

それは昼ごはん時にカプリスに来たとき、自分の店は開けっぱなしだったということか。

不用心な。空き巣が入ったら……いや、盗られて困るものをあの人が置いているわけがないか。

静さんはマヤの隣に腰かけて、2人はシフォンケーキを食べながら女子トークに花を咲かせる。

 

 

会話を聞き流しつつ、わたしは春樹たちのことを考えた。

 

行き先も言わずに、あいつらの前から消えたのはわたしが勝手にしたことだ。

目に余る行動だと見捨てられるのも、決裂だって覚悟の上だった。

みんなにどう思われたとしても、春樹と綾音が幸せになれるならそれでよかった。

わたしの春樹に対する感情は恋愛じゃないと、自分自身に証明したかったのもある。

結局は何も分からずじまいだったけど……。

 

仲間の中で誰が一番かと自分に問うたら、わたしは迷わず春樹だと答える。

あいつがいなかったら、わたしは手の施しようがないぐらいに壊れてしまっただろうから。

救われた過去がある。返しきれない恩が、春樹にはある。

春樹はやっぱり、わたしの特別だ。

だけどこれが恋かというと首をひねるところは多々あるのだが。

かといって友情というには親密すぎると指摘されると、確かにそうかもしれないと考え込んでしまう。

モノトーンが、決裂も見越したわたしに対するあいつらのメッセージだとしたら。

まだ繋がっている。終わってはいないと伝えてくれているのなら。

わたしもみんなが大切なら、前を向くべきなのだろう。

互いに思いがあるならなおさら、解決策もなしに「ごめん」のひとことで戻ってはいけない。

同じ過ちを繰り返す道だけは、今ここで完璧に絶たないと。

表面上の馴れ合いだけの仲なんて、長くは続かない。

綾音は大切だ。他の仲間も大好きだ。

だったら、春樹は――?

嫌でも怖くても、自分と向き合う必要がある。

 

絆がまだ、途絶えていないというならば――、

 

わたしも答えを探そう。

 

 

続く


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