モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 モノトーン編中2-3

2-3

 

 

 

 

「久しぶりだね。夏休み中はもう会えないかと思ってた」

「本当はもっと早くここへ来たかったわ。結衣と遊びにも行きたいし。ただちょっと今、アークがごたついていて……」

 

アークが? 皇龍が、ではなく?

首をかしげていると、マヤのカバンから音楽が聞こえた。

短いフレーズの機械的な音楽が繰り返される。スマートフォンの呼び出し音だろう。

しばらくしても音が消えないところから、これは着信か。

 

「出ないの?」

 

大音量というわけではないが、わたしにも聞こえるほどだ。

マヤが気付いていないわけがない。

 

「翔吾の音じゃないから。うるさくてごめんなさい。これ切れたらちゃんとマナーモードにしておくわ」

 

それでいいのか。

しばらくして音が消えるとマヤはスマートフォンを手早く操作し、もう一度カバンにしまってしまった。

 

「話には聞いていたけど、夏休みのアークは少し面倒なところになってしまうの」

「具体的にどんな?」

「皇龍に彼氏がいる女の人が休みで暇を持て余して、アークに大集合しちゃって」

「……うん」

「女の人って、集団になるといろいろあるじゃない」

 

グループとか、派閥とか、リーダーとか……。

聞いただけでげっそりするような話を、マヤは教えてくれた。

 

夏休みに入り時間に余裕ができた学生によって、現在クラブとしてのアークは大繁盛中とのこと。

その客層の最たるものが、皇龍に恋人のいる者と、皇龍メンバーの心を射止めたい者――つまり若い女性たちだ。

皇龍に恋人がいる人たちは、わりかし大きな顔をしてアークでくつろいでいるのだが、意図せずとも集団の特性というものがそこには出てきてしまう。

幹部に近い男の彼女をリーダーとして、周りに幅を利かせている者。

その女性と特別に仲の良い者――言い方を変えれば、取り巻き連中だ。

新参の女はそういった古参の者にあごで使われたりもするらしい。

 

「……大奥」

「お殿様はひとりじゃないけど、まあそんな感じね」

 

恐ろしい女の世界があったものだ。

櫻庭先輩に報告へ行くという凍牙に同行するのを、断固拒否して正解だったな。

マヤはそんな中でも、少し浮いた立場にいるらしい。

幹部である三國翔吾の恋人だが、学年は1年と若い。

古参の先輩たちも手は出し辛く、かといって媚びへつらうには年配者としてのプライドが許さない。

そうなってくると比較的新参の彼女たちがこぞってマヤを頼ろうとしてくる。

要は他の女の人が怖いから一緒にいて欲しい、ということだ。

 

「なんか、恋人さんが渋い顔しそうな話だね」

「そうなってほしくないわね。わたしがアークに行くのは翔吾がいるからだもの。冷たいことを言ってしまうけど、どんなに怖くて寂しいからって頼まれてもわたしは翔吾を優先するわ」

 

マヤに一切の迷いはないようだ。

 

「それにね、少し前までわたしが翔吾の彼女だからって睨んできた子に、皇龍に入ってる彼氏が出来て周りから睨まれるのが怖いって言われても……。さすがにそれを助けたいって思えるほど寛容にはなれないわ」

 

「アークに来ること自体義務でも何でもないんだから、そういう人は自己責任で切り捨てて放っておいてもいいんじゃないの」

「日暮先輩も同じことを言ってたわ。さっきの電話はその結果」

 

ああ、マヤを盾にしたい誰かさんからだったのか。

 

「アドレスの交換なんて安易にするものじゃないわね」

「なるほど。将来携帯電話を持ったときの参考にするよ」

「……いや、そこは参考にしないで柔軟にいきましょう。人の輪を広めるのも案外悪いものじゃないから」

 

どこの誰に対するフォローかも分からなかったが、マヤは真剣に言ってきた。

 

「結衣がそんなことに警戒してしまったら、電話帳登録件数万年0件の電話が実現してしまいそうよ」

 

ぽそりと呟かれた言葉は聞かなかったことにしておく。

それもありだと考えているのは事実だから。

ここでいったん話は途切れ、2人そろってオレンジジュースのストローに口をつける。

氷で冷やされた、果汁100パーセント独特の濃厚さがおいしい。

 

「本当はね」

 

前置いてから、マヤは言い辛そうにきり出した。

 

「翔吾はそういうアークの状態も見越して、結衣には皇龍に入ってほしかったのだって言っていたわ。わたしがアークで翔吾を待つ間結衣が一緒にいてくれたら、他の女の子とそこまで親密に話さなくて済むのにって」

「ごめん、彼氏さんなめてた」

 

その打算的な理由は思いつかなかった。

わたしを皇龍に入れようとした日暮先輩に賛成したのは、単純にマヤが喜ぶからというだけではなかったのか。

さすがは皇龍幹部。三國翔吾も計算高い男だ。

目論みの根底には必ずマヤがいるということは、揺るがないのだろうが。

 

「わたしも実際に夏休み中のアークの現状を見て、あそこに結衣を巻き込むのはさすがに気が引けたというか……正直、皇龍に入らなくてよかったと思ってしまったわ」

 

皇龍に所属した果てにあるのは、陰謀渦巻く女の世界か。

基本男性で形成されている皇龍に女が入るなど、嫉妬の標的になりますと言っているようなものだろ。

 

「表面上はね、みんな仲良く笑って冗談とか言い合ってたりするの。だけど少し裏をのぞいてしまえば……ね」

「うわあ、それは嫌だ」

 

成果の得られない駆け引きを日常にするなんてまっぴらごめんだ。

 

「これまでは翔吾の手が空いたときに一緒にご飯を食べたり、隙間の時間を2人でいるためにアークへ行っていたのだけど。ここ数日は他の場所で落ち合うようにしているわ」

「彼氏さんのモチベーションがだだ下がりになりそうだね」

 

そして野田先輩が困ってそうだな。

 

 

続く


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