モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 モノトーン編中1-3

1-3

 

 ☆  ☆  ☆

 

菜月の移動時には、どこに行くのでも必ず成見が付きそう。

この時間、菜月はスーパーマーケットでバイトをしているから、終了と同時にこちらへ向かうのだろう。

部屋に春樹と俺が残ったところで、俺はスマホを取り出した。

春樹はさっきの2人組のせいでいまだに不機嫌だが、こいつに気を使う必要はない。

 

「東の街で出回っていたチェーンメールだ。知り合いが送ってきた」

 

言いながら春樹にとあるメールの画面にしたスマホを渡す。

 

『写真の女は卑怯な手段を使って皇龍に取り入ろうとしている、最低な女だ』

 

そんな文面から始まるチェーンメールに添付された写真には、思いがけない人物が写っていた。

これを見たときまず思ったのは、お前何やってんだの突っ込みだ。

次に一緒に写真に写る男3人に、ついいらぬ心配をしてしまった。

さらには文面に記されている「皇龍」とやらを憂えてしまうところ、俺はあの破天荒娘をかなり危険視してしまっていることに改めて気付かされた。

何度か読み返して、ようやく関係者ではなく結衣の状況を懸念したほどである。

画面を指で下げていくにつれ、春樹の顔が険しくなっていく。

 

「いつだ?」

「届いたのは2日前だが、それ自体が出回ってからは結構な時間が過ぎている」

 

俺のスマホを睨む春樹をうかがいつつ、先程まで成見のいたソファに座る。

報告に2日待ったのは、単に春樹と2人りなる機会がなかったからだ。

大切な話は顔を見てというのが、俺たちの中では暗黙の決まりごととなっている。

これに関しては、どこかの電話嫌いが影響しているのは言うまでもない。

さらにはちゃんとした場を作らず洋人たちにこれを知らせると、チェーンメールの写真に結衣と写っている男3人の未来が危ぶまれる事態になりかねない。

いや、写真の結衣の表情からして、3人はすでにとんでもないことになった後かもしれないが。

 

「皇龍というと、東にあるチームだな」

「ああ。街ひとつ束ねるかなりの規模のところだ」

 

春樹がもう一度画面を見る。

 

「不機嫌な顔しやがって」

 

呆れたような、懐かしむような、そんな声だった。

結衣や一緒に写る男子生徒の制服から調べた高校の名を告げると、春樹が眉間にしわを寄せた。

 

「どうした」

「……凍牙と同じ高校だ」

 

思いがけない人物の名前に、目を見張る。

これは偶然と考えるにはあまりに出来すぎている。どこかの誰かの作意を疑わずにはいられなかった。

 

「よく知ってるな」

「5月にバイクの教習行ったらたまたま会ったんだ。そのときにな。……あいつ、結衣のこと聞いたら見てないっつってたぞ」

 

それは高校に入学したてでクラスも別れたため、本当に知らなかったのか。――もしくは故意に隠したのか……。

 

「どっちにしろ同じ高校にいて、凍牙が結衣に気付かないとは考えにくい。俺に連絡を寄こさない時点で、教える気はないってことだろ」

 

俺にスマホを返しながら、春樹は続ける。

 

「凍牙なら、俺たちじゃなくて結衣に味方したってのも十分有り得るな。結衣も凍牙には懐いていたからな」

「……懐いてた、か?」

 

思い返せば授業をさぼった結衣を連れ戻しに行くと、よく水口といるところは見かけたが。

 

「あいつが自分から進んで話す人間は、総じて気を許して懐いているようなもんだろ。どうでもいい人間には何らかの義務や企みなく話しかけるやつじゃないからな」

 

なるほど。さすが、付き合いが長いだけに春樹は結衣をよく分かっている。

だからこそ、余計に不思議だ。

 

「凍牙がいるなら少しは安心できるか。俺らがモノトーンを名乗ったことだって、あいつの耳に入る可能性が高くなる」

「……お前は」

「なんだ?」

「そこまで結衣を理解しておきながら、どうして毎回ああも壮絶な喧嘩を引き起こしてしまうんだろうな」

 

返答に困ったのか春樹は横に思い切り顔をそむけた。

これは春樹だけに言えたことではない。結衣も同じだ。

他の連中との言い合いは受け流したり妥協案を持ちかけるのに、こいつらは互いになると遠慮の欠片もなくなる。

無意味なまでの意地を張り、喧嘩自体が泥沼化していくことはこれまでにも何度かあった。

さすがにここまですれ違ったのは、今回が初めてだが。

 

「水口はいいとして、問題は皇龍か」

 

中3の冬にあった一件は、春樹自身も自分を責めているのは知っているのでこれ以上の言及はしない。

ここから先は当人たちで解決すべきところだ。

 

「……有希、お前向こうの街に人脈あるか?」

「オンラインで構わないならそれなりに」

「十分だ」

 

気を取り直した春樹が俺を見る。

 

「皇龍が俺たち、もしくはモノトーンをどうとらえているのか、出来るところまで探ってくれ。それと、そのチェーンメールはどんな収拾の付き方をしたのか。街の連中が結衣をどう見ているのかも、頼む」

「分かった」

 

立ち上がってパソコンのデスクへと移動する。

 

「綾音には俺から言っておく。他のやつには明日揃ったときに教えればいいだろ」

 

全員一度に知らせるなら、誰かひとりが暴走することもなくなる。

なだめ役が自然と出てくるからだ。

しかし……。

 

「洋人はぶちぎれそうだな」

 

そうなったら止める役は俺か。

どうせこういうことは成見に期待できないからな。

 

「菜月も怒るだろ。こんな馬鹿げたメール流されたんなら。あいつが下心を持って何かに取り入ろうとする姿なんざ、出会ってこのかた見たことねえよ」

 

春樹が脱力して天井を仰ぐ。

 

「結衣の周囲が安全なら、俺も綾音も待つ覚悟はあるんだ」

 

呟きは俺でなく、自分に言い聞かせたものだろう。

偶然流れてきたチェーンメールからしか、結衣にたどり着けないもどかしさ。

結衣を個人的に探すには、俺たちは敵を作りすぎた。

現状で動いて目立たないのは、俺たちの中で唯一モノトーンの結成に携わらなった綾音だけだ。

近隣の街の不良が起こした混乱を静める際、春樹と綾音は表向きは別れたことにした。

理由は単純。

ひとりでも自由に結衣を捜すために動ける人間を確保しておきたかった。ただそれだけである。

綾音は今、女子のグループに入りモノトーンの外側でしか聞こえない情報を、密かに俺たちへ伝えてくれてもいる。

高校に入学して、一皮むけたのか綾音は強かになった。

モノトーンのトップとなった春樹に、どれだけ女が寄りつこうが気にするそぶりも見せない。

 

「答えが出たの」

 

そう言って綾音は俺たちに対して朗らかに笑った。

 

「後は、結衣の答えを待つだけよ」

 

――と。

 

さっさと会って謝り、それで仲直りとはいかないのがこいつらのすごいところだ。

次に同じ過ちを繰り返さないためとことん納得いくまで考え悩むこいつらに、俺たちはもう見守ることしかできない。

 

「水口とは連絡は取らないのか?」

 

俺の質問に、しばらく考え込んだ春樹はやがて口を開く。

 

「そうだな。だめもとで結衣の様子を聞いてみるか」

 

緩慢な動きで春樹はローテーブルの隅にあるスマホへと手をのばす。

 

 

夏休みも中頃にさしかかる、8月10日のことだった。

 

 

  ☆  ☆  ☆

 

続く


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