モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 モノトーン編中1-2

1-2

 

 

  ☆  ☆  ☆  

 

 

「中3の冬にてめえらが結衣に何をしたのかは聞かねえ。だがあいつを探すためにモノトーンを利用するのは明らかにおかしいってのには、普通に気付け」

 

威圧感のある春樹の声に2人は黙るが、どう見ても不満そうだ。

 

「……お前らは、高瀬に会いたくないのか?」

 

こいつはまた余計なことを。

2人組の一方、ひょろ長い金髪の質問に、室内の温度が下がったような気がした。

 

「俺らがあいつをどうしようが、てめえらに報告する必要はねえんだよ」

「でもっ、俺たちも」

「待て!」

 

食ってかかろうとしたひょろ長を、小太りが止める。

 

「なあ、俺、もしかしたらって思ってたんだ」

 

こちらの様子をうかがいつつ、小太りが続けた。

 

「あのアルバム見て、俺たちは高瀬とお前らがまだ繋がってるんだって考えちまったけど。実はあれはフェイクで、あっちの噂、高瀬が鈴宮をいじめてたってのが真実なんじゃ」

 

ガンッ!

歯切れのいい大きな音にびくついて、小太りは喋るのを止めた。

春樹がローテーブルを蹴り付けるように足を上に乗せたのだ。

この怒気にはさすがに気付くだろう。あれはこいつらがむやみにかき回していい話ではない。

 

「そうだよ」

 

場にそぐわない明るい声。これまで傍観者を貫いていた成見が口を開く。

 

「結衣は綾音に嫉妬して、裏から学校全体が綾音をいじめるように仕向けていた。俺たちがそれを知ったところで、付き合いの長さから全てを許すだろうってところまで計算に入れて」

 

やつらは食い入るように成見を凝視する。

 

「綾音だって俺たちの仲間だ。たとえ首謀者が結衣だからといって、許せるはずがない」

 

足を組み直して、成見が真剣な表情で2人組をじっと見つめた。

 

「俺たちは結衣を今でも許していない。決裂した人間を手間暇使ってわざわざ捜す必要などないんだ」

 

2人の顔に、徐々に安堵が広っていく。分かりやすいやつらだ。

傷みのない黒髪を揺らし、人のいい笑みを浮かべた成見はそのままの顔でこいつらをつき落とす。

 

「なんて春樹が言ったら、君たちは結衣に謝る必要がなくなるのかな。それはまた打算にまみれた安直で自分勝手な謝罪があったものだね」

 

口調は穏やかだが、成見も相当きているようだ。

気持ちは分かる。不確かな情報、しかもこいつらには関係のないことで身内を悪人と決めつけられて、不愉快にならないわけがない。

 

「話が終わったならとっとと失せろ」

 

顎でドアを示す春樹にしぶしぶ従い、2人は部屋を出て行った。

ため息をつきながら、俺もやつらの後を追う。

いつものことだが、春樹たちは説明が足りない。

2階の廊下では、まだ2人が未練がましく立ち止まっていた。

 

「蔵元……」

 

救いを求めるように呼ばれて、またひとつため息がこぼれる。

 

「なにも犯罪者を指名手配するわけじゃないんだ。チームなんざ使って捜したら、結衣をここら一帯のさらし者にしてしまう。もしくは俺たちを良く思わない連中が、あいつを先に見つけてしまう可能性だって当然ある。頼むからそれぐらい察してくれ」

 

自己満足な謝罪のために、結衣を危険にさらすわけにはいかないだろう。

 

「たまたま見かけたところを俺たちに報告してくれるならありがたいが、むやみに捜し出す必要はない」

「で、でもよ」

「仮にお前たちが結衣を見つけて謝ったとしても、結衣にとってそれはあまり重要なことではないと思うが」

 

むしろこの2人組に過去に何をされたのかを覚えているかも怪しい。

結衣は記憶力に優れてはいるが、覚えようと意識する項目が非常に偏っている。むかしから自分に起きた出来事については、非常に無頓着だった。

 

「そんなの、高瀬じゃねえと分かんねえだろ」

 

むきになって返してきた小太りからは焦りが感じられた。

睨んでくる視線をものともせず、2人とそれぞれ目を合わす。

 

「とにかく余計なまねはするな。周囲に高瀬結衣のことをむやみに吹聴するのも絶対にやめろ」

 

春樹じゃないやつの命令が気に食わないのだろう。

返事をすることなく2人は俺に背を向けた。

 

「間違っても、謝れば全てが済まされると思うな」

 

歩き出したやつらに静に言う。

 

「お前らが結衣にしたことは、過去として一生残る。どんな償いをしてもなかったことには出来ない。これだけは忘れるな」

 

足を止めた2人は青い顔をして振り返るが、言い訳を聞くつもりもないので部屋に戻った。

今の言葉は、俺自身にも言えることだ。

隠されていたとはいえ、結衣がいじめを受けているのを見過ごした俺にも、罪がないわけじゃない。

春樹たちも同じ思いだろう。やつらを責める前に自分を責めてしまうから、感情に任せて毎回強く出られない。

 

「有希は優しいね。フォローご苦労さま」

 

これはねぎらいでもなんでもない、成見の皮肉だ。

あんなやつらに気を使うなという裏の意味は瞬時に理解できた。

 

「下手に動かないよう釘を刺しただけだ。後先考えずにおかしな行動をとられるわけにはいかないだろ」

「確かにね。あれは安直なうえ、自分本位過ぎる」

 

スマホを操作していた成見が立ち上がる。

 

「じゃあ、変なのも消えたし、俺は菜月を迎えに行ってくるよ」

 

言い終わるや否や俺と春樹の返事を待たず、成見はドアの向こうに消えた。

 

  ☆  ☆  ☆

 

続く


BACK  TOP  NEXT

Loadingこのページに「しおり」をはさむ