モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 モノトーン編中1-1

1-1

 

 

☆  ☆  ☆

 

海に面した倉庫街の一角。

かつては貿易関係で利用されていたが、約20年前に隣接していた港が別の場所に移転し、頻繁だった人の行き交いもなくなった。

現在にいたっては倉庫という目的ですら使用されていない。

数か月前まで、ここは地元でも有名なチーム「ストーム」の拠点となっていた。

そこを俺たちのトップ、武藤春樹が譲り受けたのは、今年の5月のことだ。

……譲り受けた、では語弊があるか。この場合は押し付けられたという表現のほうが的を射ているかもしれない。

ストームは世代交代がなければメンバーの入れ替わりも少ない、少数精鋭のチームだった。

当然、月日を重ねるにつれメンバーも大人になり、リーダーの男が来年に大学卒業するのを期に解散する予定だったという。

それを早めたのが、近隣の街から湧き上がった不良どもの暴動である。

何を粋がってこっちの街にまで手を出してきたのかは知らないが、全くもって甚だ迷惑極まりない。

電車通学の生徒は高校から駅まで徒歩5分の下校に、一時は安全のためシャトルバスが運行する事態に発展したほどだ。

街中で恐喝やチーム同時の衝突が日常茶飯事となり、ここは本当に日本かと本気で問いただしたくなったくらいに、街は荒れた。

ストームのリーダーが春樹に声をかけたのは、そんなときだった。

拠点の倉庫に招待し一言「ここはやる。後は頼む」といったのを最後に、ストームは解散となった。

若い世代のことは若いやつらで解決しろ、ということらしい。

リーダーの男は中学生だったころの春樹にすでに目を付け、卒業するのをずっと待っていたというのは後から聞いた話だ。

街を平定してくれるなら今年いっぱい倉庫の光熱費はこちらが持つ。

そんなおいしい条件を付けてくるあたり、ストームのリーダーが春樹にかける期待がうかがえる。

俺たちも他にすることはあった。しかし街の状態を放置しておけば、後に今以上の面倒が起こる事は安易に予想ができたのでリーダーの提案を受け入れた。

 

それから。

ひとまず粋がってこの街に攻めて来たあほどもは叩き潰して追い返した。

春樹がまだ高1のガキだからとなめてかかった連中を心の底から後悔させて、近隣の街を含めたチーム同士を仲立ちする立場を確立させた。

ここまでするのに、2ヶ月の時間がかかってしまった。

ようやく街も安定し以前の様子を取り戻してきたところで、春樹を中心とした集団は「モノトーン」を名乗る。

こっちの事情でお前を探せないなら、せめてこの名前だけでも届いてほしいと、俺たちは願ったんだ。

 

モノトーンの拠点となった倉庫街。

コンクリートでできた建物がいくつも連なってはいるが、電気が通っているのは通りから一番近い倉庫だけである。

倉庫は三角屋根の2階建て。1階はコンクリートの床に高い天井の開けたスペースとなっており、吹き抜けの2階には部屋が2つ。

2階のかつて事務所だった部屋はストームが改装し、まるでマンションの一室のような居住空間が出来上がっていた。

エアコン、ソファ、冷蔵庫などは全てストームからそのまま譲り受けたので、俺たちが倉庫にいるときは主にこの部屋を利用していた。

現在部屋にいるのは6人。

俺は奥の隅に置かれたパソコン用デスクの付属チェアに座っている。

部屋の中央にあるローテーブルを囲うように、角を空けてコの字型に配置された3つの黒いソファにも、それぞれ一人ずつ仲間が陣取っていた。

室内の空気は重い。

原因は話があると先程部屋に入ってきた、2人組のせいだ。

顔は知っている。出身が同じ中学の同級生だったやつらだ。

春樹に対してはへりくだる傾向が昔からあるようで、モノトーンを発足させたときも何かと後ろから付いてきていたと記憶している。

 

「だから、こんだけ大きなチームになったんだから、今なら絶対見つけられるって」

 

2人組のうち、茶髪で小太りのほうがさっきと同じことを俺たちに訴えかける。

空気がまた一段と重くなった。

 

「必要ないっつってんだ。何回も言わせんじゃねえよ」

 

ドアの前に立つ2人からして、正面にあるソファに座る春樹が言い放つ。

俺の場所からは肩から上のオレンジ色の頭しか見えていないが、声からしてさぞいらついていることだろう。

鼻筋の通った左右均衡な顔をしたモテ男が、剣呑な表情をしているのは安易に想像できた。

部屋に入ってくるなり、2人組が切り出したこと。

モノトーンは他のチームに多大な影響をもたらせるようになったんだ。このネットワークを使えば高瀬結衣も簡単に見つけられるとこいつらが提案してから、春樹の機嫌は降下する一方となっている。

余計なことは言わずに空気を読んでとっとと消えろとさっきから念じているが、全く伝わっていない。

 

「なんでだよっ。俺たち中学のときに高瀬にしてしまったこと、すげー反省してんだ。あいつに会ってあのときのこと一言謝りたっ」

 

ドンっと、低く鈍い音が小太りの声をさえぎった。

3人掛けのソファにあおむけで仮眠をとっていた洋人が、そのままの体勢でソファに勢いよくかかとを振り下げたのだ。

 

「有希(ゆき)、……何時だ?」

「もうすぐ15時になるところだ」

 

洋人の問いに答えてやると、だるそうに洋人は起き上がる。

寝癖の付いた赤茶色の髪をかきながら、片手で靴を履く。

現在ここにはいないが、掃除が大変だからソファで寝るときは靴を脱げと菜月が躾けた成果である。

のっそり立ち上がり、あくびをしながら背中を伸ばした洋人は入口に向かう。

目つきの悪さと態度のでかさなど、こいつは見た目でかなり損をしている。

1学期が終わってもまだ、洋人の赤茶色の髪が地毛だと信じない教師がいるほどだ。

 

「バイト行く。なんかあったらメール入れといてくれ」

「おう。気をつけろよ」

 

応じた春樹に軽く手を上げて、洋人はドアの前から避けた2人を無視して出て行った。

洋人の行動からして、おそらく途中から目が覚めて話の内容は聞いていたのだろう。

ドアの閉まる音とともに、部屋は静まり返った。

 

  ☆  ☆  ☆  

 

続く


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