モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 モノトーン編上3-1

3-1

 

 

 

凍牙と仮初の交際を始めてから4日が立つ。

これまでの付きまといが嘘のように小野寺雫は姿を現さなくなった。

毎日、凍牙はバイトの終了時間が近くなるとカプリスへ迎えに来る。

ちゃっかり店の掃除を手伝ってくれるものだから、静さんにもかなり気に入られているようだった。

静さんは凍牙のことを柳さんから聞いていたようだ。

手も口も器用で将来有望な世渡り人というのが柳さんの評した凍牙らしく、借りを作っておけば老後に楽が出来ると冗談で言っていたとか。

元教え子にたかんじゃねえと、それを聞いた凍牙は苦々しげにぼやいていた。

 

バイトが終われば2人で駅前をふらついて、そのまま凍牙にわたしの住むマンションの前まで送ってもらう。

気分によって夕飯は外食で済ませた。

時々わざと適当なクラブに立ち寄って、そこに小野寺雫の協力者がいるかを確かめた。

店に入った凍牙の姿を見て不自然な行動をとったり、奥へ引っ込んだスタッフの特徴をとらえ、他のスタッフにさりげなく名前を確認する。

小野寺雫は凍牙といるときに接触こそしてこなかったが、姿は何度も目撃した。

ファーストフードで夕飯を食べて店を出ようとしたとき、出口付近のカウンターでひとりジュースを飲んでいたこともあった。

こちらから話しかけるようなまねはせず、気付かないふりでそのまま後ろを通り過ぎたが。

凍牙にいたってはわたしを送った後自宅に帰る途中で、泣いている小野寺雫が道の真ん中に立っているという状態に毎日出くわしているらしい。軽くホラーだ。

ただし彼女は凍牙に詰め寄ることもなく、距離が一定に縮まるとそっぽを向いて走って姿を消してしまうとか。

 

「何がしたいのか全く不明だ」

 

バイトが終わり、牛丼店で夕食を取りながらの作戦会議。

小野寺雫の行動を凍牙から聞いていたが、良し悪しはともかくとして変化は起こっているようだった。

 

「凍牙に追いかけて欲しいんじゃないの?」

 

凍牙が自分のことを好きだと彼女が思い込んでいるなら、あり得る仮定だ。

 

「仮に俺が追いかけて、それからどうしろと」

 

警察に引き渡す。いやいや、これはわたしの考えであって彼女の望みじゃない。

 

「追いかけて、追いついて……、仲直り?」

「待て、そもそも仲直りができるほど深く関係を持ってないだろ」

「凍牙はそうでも彼女はすでに深く関係を持ってる気でいるんじゃないの。あ……、これちょっと当たりかも」

 

彼女にとって、凍牙の意思は関係ない。

自分で決めたシナリオの中に、凍牙やわたしを強引に当てはめて動かそうとしている。それも自覚なく。

これが櫻庭先輩の言う正解だったらたちが悪いな。

そう言う人間はどうやって動かせばいいのか。

罪悪感につけ込もうにも他人に嫌がられているという認識がないのだ。

誠心誠意、迷惑だと伝えたところで彼女がどうとらえるか分かったものじゃない。

材料はそろいつつあるのに、核心となりそうなピースが足りない。

 

「何を見落としてるんだろうなぁ、わたしは」

 

これはもう長期戦を覚悟すべきかと思った次の日――。

 

 

「いい加減にしてよ!!」

 

 

痺れを切らした小野寺雫がわたしたちの前に現れた。

 

 

続く


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