モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 番外編「巡り縁epilogue」

6.エピローグ(A.NODA)

 

 

通っている高校の入学式があったその日。
 
 
クラブアークの2階でソファに座り何やら深刻そうに用紙を睨む翔吾を不思議に思い、声をかけてみた。
 
 
翔吾はこちらに目もくれず、無言で手にした用紙を俺に渡してくる
 
 
受け取って目を通すと、それは俺たちが通う高校の新1年生のクラス名簿だった。
 
 
こいつ、マヤちゃんのことが心配で、どこぞから取り寄せたな。
 
 
 
「マヤは1年2組。吉澤先生が担任だ」
 
 
「ああ、良かったじゃないか」
 
 
 
吉澤先生はこの街にとって生きる伝説ともいえる人だ。学年を問わず生徒たちから絶大な信頼を得ているだけに、影響力もすごい。
 
 
あの先生が担任だというなら、翔吾の彼女だからといってマヤちゃんに手を出そうとするやつを、クラスの中でならある程度けん制できるだろう。
 
 
1年2組の名簿を見る。皇龍に属しているやつの名前も多数見受けられ、このクラスは問題児と言わずとも訳アリな生徒が集められているのだと想像できた。
 
 
翔吾は俺が名簿を見ている間、正面を向いたまま微動だにしなかった。
 
 
「どうした。マヤちゃんが問題児と位置付けられたのが気にくわないのか?」
 
「……1年2組に水口がいない」
 
 
 
言われてその事実に気付き、俺は再び目を通しやつの名前を探す。
 
 
水口凍牙の名前は見つかった。しかしそれは、吉澤先生のクラスではない。
 
 
 
「春休みにあれだけ目立ったやつが、あの先生にマークされていないのはなぜだ」
 
 
 
自身に問いかけるように翔吾が呟く。確かにあの先生なら先日起こった一連の騒動については把握しているはずた。
 
 
難ありな生徒は校内で問題行動を起こされる前に、目が行き渡る自分のクラスに在籍させたいと吉澤先生が望むのは何も不思議ではない。
 
 
あの先生なら、クラス発表の1日前でも生徒を入れ替えさせることはたやすいだろう。
 
 
だけどな、翔吾よ。
 
 
 
「考えすぎだと俺は思うぞ。水口が皇龍に喧嘩を売ったとかならまだしも、くだんの一件も濡れ衣だったと証明されているわけだろ」
 
 
 
翔吾はただじっと前を見続ける。俺の言葉に納得していないのだろう。
 
 
だからと行ってどんなに考えても、これ以上確かな答えは出て来ない。直接聞きに行ったところで、吉澤先生が正直に答えてくれるなど有り得ないのだから。
 
 
 
「よかったと思えばいいんじゃないのか。マヤちゃんと水口が同じクラスじゃなくて」
 
 
 
なおも反応を返さない翔吾に軽くため息をつき、やつの座るソファの前にあるローテーブルへと名簿を放り投げる。
 
 
 
「案外、水口以上の問題児が紛れ込んでいるのかもな」
 
 
冗談めかして言い放ち、俺はその場を離れた。
 
 
 
 
 
 
 
自分が言った冗談がまさかの真実だったと思い知るのは、今よりもう少し先の話となる。
 
 
 
 
 
 
 
 
1年2組  高瀬結衣
 
 
 
 
――そして、彼女の物語が始まる。
 
 
 
 
 
 
 
「巡り縁」END
 『モノトーンの黒猫』本編に続く
 
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