モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 番外編「巡り縁5」

   ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

ーーこの街で皇龍の敵、みたいな扱いされるとめんどくさいでしょ?

 

別に俺たちは君のことを敵視しているわけじゃなくても、街の人たちが勝手に暴走しちゃうんだよねー。

 

噂のひとり歩きを甘く見ちゃだめだよ。

 

ねえ、水口くん。今の状況が気にくわないなら、皇龍に入ってみない? 周りの扱い、面白いぐらいに変わるよ?

 

皇龍に入るのが嫌ってのなら、ちょーっと俺に協力してくれるだけでいいからさあ。

 

 

君も、俺たちに借りを作っておいても損にはならないはずだよ。

 

 

ああ、あともうひとつ。マヤちゃんの件はありがとうね。

 

 

 

   ◇  ◇  ◇

 

 

.S.Higure

 

 

 

夕刻の街外れ。

 

 

かつては小さな企業の事務所として使用されていたさびれたプレハブに、西日が差しこむ。

 

 

「なーにも皇龍に加われって言ってるんじゃないんだよー。

 

ただね、同じ街にできたチームのよしみで俺たちも君たちとは仲良くやっていきたいから、今度うちの拠点に招待するって言ってるだけなのに。

 

どーして受けてくれないのかなー」

 

 

 

最近この街でチームとして出来上がった集団のたまり場は、つい先ほど圧倒的な力を見せつける形で皇龍が制圧した。

 

 

そして現在、新興チームのトップと一輝が交渉に及んでいるわけではあるが。

 

 

恐れと警戒心をむき出しにしてこちらを睨むばかりで、相手は委縮したまま口を開こうとすらしない。

 

制圧したチームの連中は代表者の背後に立ち尽くす。おおよそ20名ほどの不安げな視線が、やつらのリーダーに釘付けとなっていた。

 

皇龍側は3人を残して残りの戦力は建物の外で待機させてある。

 

皇龍と言っても、正式に所属しているのは俺と交渉役の一輝と、もうひとり、武という男だけだ。最後のひとり、水口は一輝の呼びかけに応じてこちらに手を貸しているにすぎない。

 

相手は反抗心もろとも最初の襲撃で叩きのめしたので、少人数だからと勝機を見出し飛びかかってくることはないだろう。万が一があったとしても、この狭い空間では人数の多さがやつらの有利に働くとは考えにくい。

 

ならば後は向こうの言質をもぎ取れば今日のところは目的が達成される。そんな段階になって、やつらが渋り始めたものだから室内の空気に苛立ちが混ざる。

 

胡散臭い猫ねで声で説き伏ていた一輝の話し方が、相手の反応のなさにやる気が失せて投げやりなものに変わっていくのも時間の問題だった。

 

 

「あのさー、君たちみたいな生まれたての雛みたいなチームならなおさら、俺たちと手を取り合って協力関係を築いた方が心強いでしょ。俺はそう思うんだけどなー、どーかなー。

 

あ、ひょっとして、自分たちが皇龍に吸収されるのが嫌で警戒しちゃってるとか? なにその反抗期。やだなあそんなこと強制的にやるわけがないよー。

 

ほら、そこにいる彼だって、実は皇龍じゃないんだよ。時々気が向いたときに俺たちと助けてくれるだけだし、結構それで仲良くやってるよね」

 

 

 

トップの男は一輝が指示した水口に探るような視線を向ける。

 

 

 

「……皇龍ではないな。……俺は」

 

 

「ね? 彼もそう言ってるんださ」

 

 

お前らはどうせ皇龍に吸収されてチームそのものが潰れることもなく消えてなくなる。そう言いたげな水口だったが、一輝は相手の注意を水口から自分に向けさせるため、あえてゆっくりと口調を変えて言い放った。

 

 

「皇龍は、街の秩序を乱すやつには容赦しないよ。俺たちとの力の差はさっき思い知ったと思うし、ここらで頷いておこうよ。ねえ?」

 

 

 

最終的にははたから見れば脅迫かと間違えられそうなお願いを相手が受ける形で、新興チームの皇龍拠点への来訪を約束させた。

 

 

「あいつら、誰の下で面倒見るか考えなきゃねー」

 

 

 

そしてプレハブを出るなりこれである。外に控えていたやつらもすぐに解散し、一輝は次の段階へと計画を組み始める。

 

 

 

「もういいですか?」

 

 

「うん、ありがとねー水口くん」

 

 

 

皇龍に所属せずとも良好な関係を築くことは可能だと、前例としてやつらに示すために今日ここに水口が呼ばれたわけではあるが、プレハブが見えなくなるまでは俺たちと行動を共にするあたりこいつは心得ている。

 

 

 

ただし役目は終わればもはや他人と言わんばかりに、水口はさっさと俺たちに背を向けた。

 

 

 

「なあ、ちょっと待てよ」

 

 

 

去り際の水口を呼びとめたのは、皇龍に所属する武だった。新興チームを締め上げるのにひと暴れした後、交渉を全て一輝に押し付け早々に外の空気を吸うためにプレハブを出ていったやつだ。

 

目的を達成しアークへ帰る俺たちと合流した武が、同行する水口を観察していたのは知っていた。水口に対する敵意よりも、純粋な興味だと理解しているので放っておく。

 

 

 

「……何か?」

 

 

 

あからさまにだるそうな態度で振り返った水口に、武はそう、それだと呟いて首をひねる。

 

 

 

「お前ってさ、皇龍に呼び出されて活動を手伝わされることに喜びも楽しみもないよな。当然、名誉なことだとも思ってはいないだろ」

 

 

「できれば呼び出し自体も遠慮してほしいところですね」

 

 

「だよな。だったらそもそもなんで、お前みたいなやつが俺たちの前に出てきて目立つようなことしてんだよ」

 

 

 

武の言いたいことは分かる。

 

 

たとえ人並み以上の実力があったとしても、それを周囲に見せびらかすかどうかはそいつの自由だ。

 

 

目を付けられると面倒事になると分かっているやつが、始めから自らの実力を俺たちに晒す必要などなかったのではないか。

 

 

目立たず、人目にさらされることもなく、皇龍と関わらないままひっそりと過ごすことも水口ならばできたのではと、ここにいる誰もが疑念を抱いている。

 

 

 

「俺には、お前があえて自分が目立つことによって、何かを隠しているようにしか思えねえんだよ」

 

 

 

武の指摘に対して、水口は動じない。呆れたように息をつくだけだ。

 

 

 

「その人を前にして、俺にそれを言いますか」

 

 

「ええー、それだと俺が悪いみたいじゃん」

 

 

 

一輝が大げさに肩をすくめてみせる。

 

 

 

「少なくとも櫻庭さんに出会わなければ、俺がこんな手伝いをせざるを得ない立場に陥ることはなかったでしょうね」

 

 

「そっかあ。じゃあ、この御縁には感謝しないとねえ」

 

 

「奇縁を恨みますよ」

 

 

そう言い捨てて、水口は俺たちの前から消えた。

 

 

 

 

 

 

アークへ戻ったのち、2階のスペースで休憩していた俺の元へ一輝が近づいてきた。

 

 

 

「なかなか掴ませてくれないねー、水口くんは。そーちょーはどう思う?」

 

 

「どうであっても今の段階では現状維持が最善だろう。やつに悪意がないのは俺たちにとっても救いだ」

 

 

「そーだよねー。たださあ、武が言ってたことには俺も同感で、なーんかあると思うんだよねー、彼」

 

 

 

だったとしても、水口が尻尾をつかませない限りはこちらから手を出すべきではない、というのが皇龍の出した結論だ。

 

 

監視の手は緩めないが、下手な損害を被らないためにも皇龍側からむやみにやつをつつく必要はない。

 

俺たちから何かを隠すために水口は自ら目立つようなまねをしている。その可能性を捨てるつもりもない。

 

 

仮にそれが真実だったとした場合、水口が自身を犠牲にしてまで隠そうとしているのは、一体どれほどのものなのか――?

 

 

人であれ組織であれ、それはやつにとっては相当大切なものには間違いないのだろう。

 

 

ならば、水口は。

 

 

 

「隠したい、ではなく守りたい。それがやつの本心か……?」

 

 

仮定に仮定を重ねて導いた根拠などはどこにもない推論だったが、一輝には引っかかるところがあったらしい。

 

 

なるほど、と一輝にしては珍しい神妙な面持ちで何度も頷いていた。

 

 

 

 

続く


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