モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 皇龍編下6-1

6-1

 

 

テスト期間の1週間、マヤとはひとことも喋らなかった。

マヤが、ではなく、わたしがマヤから逃げ続けた結果だ。

本鈴のぎりぎりに登校して、テストが終われば即行で下校する。

マヤにどんな態度で接していいのか分からず、怖がっているのはわたしのほうだ。

そしてテストが終わった次の月曜日。

朝のショートホームルームが終わってすぐ、ずっと避けていたマヤがわたしのところへ来た。

 

「今日のお昼、一緒に食べない?」

「恋人さんは」

「翔吾には伝えてあるわ。行っておいでって言われたから大丈夫よ。話を、聞いてほしいの」

「……うん」

 

了承したわたしに、マヤは嬉しそうに頷いた。

それからの授業は、柄にもなく緊張した。

昼が来ないでほしいと願う日ほど、時間がたつのは早い。

あっという間に4限目が終わり、昼休みが始まった。

わたしとマヤは教室を出て、5月のはじめらへんに二人で昼を食べたところと同じ場所に腰を下ろした。

7月になって、気温がさらに上昇したようだ。

日陰にいても風がなかったら暑苦しく感じる。

 

「気分を害したらごめんなさい」

 

そう言って、マヤは話し出した。

 

「今の結衣は、昔の翔吾に似ているの」

 

それは複雑だ。

わたしの心情を察し、マヤが苦笑する。

 

「中学校に入るまで、翔吾は感情で動く人だったわ。怒りに任せて相手に怪我を負わせたことも、一度や二度じゃないし。

それで、毎回我に返った後は、自分の部屋に閉じこもっちゃうの。自己嫌悪と、そんな自分をみんなが嫌いになるのが怖いんだって」

 

そこは「みんなが」ではなく「マヤが」というのが正解かと。

 

「もうそこからは持久戦よ。翔吾の部屋の前で、ひたすらに出て来てくれるのを待ち続けるの。今じゃもうなくなったけど、小さかったころは何回も繰り返したことよ。

……翔吾の場合は受け身で待ってたけど。結衣は、わたしから行かないともう前みたいに戻れない気がしたの」

 

マヤのゆるぎない瞳に、わたしが映る。

情けない顔をした自分を見てしまった。

 

「あの時、わたしは何もできずにただ震えていただけだった。何もできない、ただのお荷物にしかなれなかった。役立たずで、結衣の足を引っ張っていただけ」

 

……違うよ。それは違う。

マヤの反応が普通なんだよ。

怖い目にあって震えるのだって当たり前だ。

わたしが普通じゃないだけで、わたしの異常にマヤが合わせる必要はない。

 

「結衣がわたしを役立たずと言って嫌いにならない限り、わたしは結衣と離れたくないわ。これからも友達でいたい」

 

――友達、か。

 

「あの男の目に、シャーペンを突き付けて笑っていたわたしが、本当のわたしかもしれないよ?」

「そうしてでもあの場を打開しようと必死になっていたのが、本当の結衣なんでしょ?」

 

ああ言えばこう言うの典型だな。

 

「大丈夫よ、わたしは。伊達に返り血男の幼馴染を何年もしていないわ」

 

それは三國翔吾のことか。

 

「だからね。結衣が皇龍に入るかもしれないって聞いたとき、すごく嬉しかったわ。一緒にいられる時間が増えるんだもの」

 

マヤは嘘を言っていない。心から嬉しそうに笑っている。

 

「わたしも、これからもマヤと一緒にいたい」

 

自然に漏れた言葉は、本心だ。

それを聞いたマヤは、さらに顔をほころばせた。

 

 

授業が全て終了して、クラスメイトが散り散りに動く。

マヤは以前と同じようにわたしとあいさつを交わし、帰って行った。

わたしは1年1組が終わるのを廊下で待った。

5分ほどして、廊下の奥の1組と2組が時間を置かず解散となり、階段へ行く生徒の波が押し寄せてきた。

教室に避難して人混みをやり過ごし、タイミングをずらすようにやって来た目的の人物――凍牙に声をかけた。

 

「お願いがある」

「なんだ」

「ものすごく腹立たしくて、頭が痛くなるぐらいにいらいらして、うなだれたくなるような情報を教えるから、日暮先輩と繋いで欲しい」

「その情報は俺と関わりがあるのか?」

 

ものすごく。むしろ当事者です。

いぶかしがりながらも凍牙は櫻庭先輩を通して、日暮先輩への伝言を渡してくれた。

 

 

次にあの店名不明の喫茶店にのりこむ時は、凍牙も一緒だ。

 

 

 

続く


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