モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 皇龍編下2-2

2-2

 

 

次の日は朝から梅雨らしいじめじめとした空気の中、霧のような雨が降っていた。

学校に登校して下駄箱を開けると、上靴の上に白い封筒が置かれていることに気付く。

封はしっかりとされていた、裏返しても宛名はない。

下駄箱の位置は知られているか。

上靴に履き替えて、下靴は持参したスーパーの袋に入れて教室へ持っていく。

念の為だが、帰りに靴がないなんてことは避けたいところだ。

すれ違う生徒のわたしを見る表情は、昨日と同じで嫌悪や敵意に満ちたものばかりだった。

野次は飛んでも、引きとめる者がいないのは嬉しい。遅刻は嫌だ。

教室に付いたら下靴は後ろのロッカーにしまう。

個々で鍵がかけられるので、誰にも手は出せない安全な場所だ。

席についてカバンから必要なものを出していると、本鈴と同時に吉澤先生が教室に入ってきた。

ショートホームルームが終わった後、下駄箱に入っていた封筒は中身を見ずにゴミ箱へ捨てた。

自分の席に戻って、1限目の用意をする。

 

「まじかっ」

「えっ、どうして……」

 

休み時間の騒がしい廊下が、別の意味で騒然とした。

何かあったのかとドアのほうに目を向けると、教室に見知らぬ男子生徒が入ってきた。

ネクタイの色から、彼が3年の先輩であることは分かった。

教室内を見渡していたその人は、あろうことかわたしと目が合うとこちらに近付いてきた。

赤い髪のつり目。唇の端にあいたピアスは校則で大丈夫なのか?

 

「高瀬結衣か?」

「そうですが、何か?」

 

座っているわたしを見下ろしていたその人は、質問には答えずに黙って頭を下げた。

クラス内だけでなく、廊下から見物していた誰もが唖然としている。

 

「今回の騒動、下の連中が本当にすまなかった。俺の監督責任だ」

 

そこまで言って、この人は頭を上げた。

 

「メールの写真の3人を締め上げたら、高瀬に声をかけたのは自分たちだと吐いた」

 

……締め上げた? 問い詰めたんじゃないのか。

 

「いらぬ誤解を周囲にさせて申し訳ない。あいつらには俺からきつく言っておく。

馬鹿げたメールも、俺たちの情報担当が全力で訂正に回ると約束する。

――この俺に免じて、あの3人を許してやってはくれないか?」

 

この人、本当はこんなところで年下に謝るような人じゃないんだろうな。

注目を浴びる中、あえてわたしに頭を下げて、無実を周囲に伝えてくれている。

――この人が、あの3人組のやらかしたことの最たる被害者なんじゃないだろうか。

 

「あの3人に呼び止められたことにより、わたしはバイトに遅刻しました」

「……………」

 

へ、お前今それ言うの?

そんな空気が流れているけど、これだけは言っておかないと。

 

「少しは人の事情を考えろと、そこはちゃんと伝えてください」

「……それは重要なことか?」

「わたしにとっては最重要事項かと」

「…………説教の項目に加えておく」

「お願いします」

 

後はもういい。誤解を解いてくれるなら、もうこれ以上この人がさらし者になる必要もない。

 

「お前を巻き込んだ3人にも、後で詫びを入れさせようか?」

「いりませんよ。もう十分です」

「そうか。――津月をよろしく頼む」

 

最後の一言はひっそりと、わたしにだけ聞こえるように彼は言った。

その人はもう一度済まなかったと頭を下げ、教室から出て行った。

 

「結衣!」

 

余韻に静まる教室で、マヤがわたしの席まで来た。

 

「――今のって、皇龍の人でよかったんだよね?」

「幹部の大原 武(オオハラ タケル)さんだよ!!」

 

マヤに聞いたのに、なぜか窓際にいた榎本君に突っ込まれてしまった。

 

「あーもう、こいつ絶対あり得ねえ」

 

と言いながら、頭を抱えている。

マヤも榎本君を見て苦笑していた。

前のほうから、学級委員の田所さんが歩いてきた。

わたしの肩に手を添えたので、何事かと田所さんを見上げる。

 

「大丈夫。あんたの変人っぷりはクラスのほとんどが知ってるから」

 

………………。

お願い。悲しくなるからそんなこと真顔で言わないでほしい。

 
 
 
 
続く

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