モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 皇龍編下1-4

1-4

 

 

翌日。

学校に登校したときの空気で分かってしまった。

さすが、人のうわさは伝わるのが早い。

 

「サイテー」

 

予鈴が鳴っても廊下でたむろしていた見知らぬ生徒から、野次をもらって確信する。

本鈴まであと1分というところで教室に入ったが、ここでもクラスメイトの注目を浴びた。

しかしどういうわけか、廊下や階段ですれ違った生徒の敵意に満ちた顔ぶれが、クラス内では少ない気がする。

同情や哀れみもたれているように感じるのは思い違いか?

 

「結衣」

 

マヤが心配そうにわたしの席まで歩み寄ってくる。

 

「おはよう」

「おはよう……あのね、昨日の夜チェーンメールが回ってきたの」

 

チェーンメール? ――ああ。

 

「不幸の手紙の現代版か」

「……わたしには不幸の手紙が分からないわ」

「わたしの父親が小学生のころに流行したらしい。

ある日郵便受けに差出人不明の手紙が投かんされていて、内容が『この手紙を5人に送らないとお前は呪われる』みたいなものだったとか。

チェーンメールはその手紙がメールになったもの、だよね?」

「まあ、大きく見たら間違いじゃないわね。今はメールよりもSNSが主流になっているけど」

 

もはや現代のチェーンメールはメールですらなかったよ。時代に取り残された気分だ。

主題に入る前に、本鈴が鳴った。

マヤは「あとで」と言って、席に戻った。

 

『写真の女は卑怯な手段を使って皇龍に取り入ろうとしている、最低な女だ。

皇龍を慕う者ならば、このメールを知り合い20人に送って女の陰謀を阻止すること。

後日皇龍が情報を調べた際、メールを送信していないと分かった者は、皇龍の敵とみなされる』

 

マヤが見せてくれたスマートフォンの画面には、そんな文面と、わたしが昨日の放課後にあの3人組と対峙していた時の写真があった。

 

「20人ってえげつない数だね」

 

仮にわたしが携帯電話を持っていたとしても、それだけの人数にメール送信なんて無理だ。そんなに友達がいない。

ショートホームルームが終わった後の休憩時間だが、廊下から教室内を覗いてくる生徒の数がやたらと多い。

すっかり見世物状態だ。

 

「皇龍の敵とみなされるってところにみんな怖がって、本当かどうか分からないけどとりあえず送信しておこうって人が多いみたい」

「こういうのって、どれぐらい出回るものなの?」

「分からないわ。でも、高校生でケータイを持ってない人のほうが珍しいし。

皇龍の名前が出ていたら広まりも早いって、今朝翔吾も言っていたわ」

 

拡散が早いなら、出所をつきとめるのもそれだけ難しいだろうに。

 

つまり、あれか。

 

「これ、バイト先の人が見たら、わたしは皇龍に取り入ろうとしたがために昨日遅刻した、ということになってしまうんだよね」

 

なんだこの理不尽な状況は。

 

「昨日、遅刻してしまったの?」

「ここに映ってる三人衆のおかげでね」

 

ひょっとしたら、この3人もメールを流した大元とグルか?

 

「こいつらって、本当に皇龍なの?」

 

皇龍である前提で話を進めていたが、最初から罠だったという考えも消してはいけないだろう。

横顔をここまではっきりと写されてモザイクもなしで流されている時点で、写真を撮った者とこの3人が仲間という可能性は低いが。

どっちにしろ、この写真は証拠としては十分だ。

わたしもだけど、3人組も逃げられない。

 

「皇龍では急いでメールの事実を確認するらしいわ。

皇龍に取り入るのが目的なら、結衣は最初からわたしを利用してるって言ったんだけど、部外者を特別扱い出来ないって」

「それが正解だよ。下手に特別視されたら今度こそ確実に袋叩きに合う」

 

確認した結果、仲間を信じることにしたとか言われたらとんだ茶番だ。

 

「皇龍の上層部が写真の3人を信じることにしたなんて言ったら、その時は手加減なくわたしがこの3人を締め上げるけど。

そうなった場合は証人としてぜひともマヤの人脈を貸してほしい」

「多分、そんなことにはならないと思うけど、その時の協力は約束させてもらうわ」

「助かるよ」

 

敵意は受け流せるから、大丈夫だ。

これだけあからさまなものなら、むしろすがすがしい。

知ってほしい人が本当のことを信じてくれている。

それ以上の贅沢を、わたしは求めるつもりはない。

マヤはスマートフォンの画面を食い入るように見つめて、難しい表情で首をひねった。

 

「それにしても、この写真の結衣、すごく不機嫌よね。

これ『取り入ろうとしている』というよりも『けんかを売ってる』って方が信憑性があるきがするのだけど」

「……急いでいたからね」

 

確かに、この写真のわたしは見るからに目が据わっている。

そっちの方の内容でチェーンメールを流されていたら、もう駄目だったかもしれない。

 

 

 

続く


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