モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 皇龍編下1-2

1-2

 

 

人のうわさも75日というけれど、情報に溢れた現代社会では75日も続く話題のほうが珍しい。
 
 
マヤと三國翔吾の熱愛騒動は、休日をまたいで月曜日になればすでに消化の気配を見せていた。
 
 
それからまた一週間。
 
 
生徒たちの関心は、来週にある中間テストの話に完全なまでに移動しているようだった。
 
 
その間にあった、わたしの「ほどほどにおいしい弁当作戦」は見事なまでに撃沈した。
 
 
どうやらわたしの料理は、一般的なものに比べて味が薄すぎるらしい。
 
 
「次は味塩でも醤油でもいいからかけるものを持参しろ」
 
 
大きめのタッパに入ったおかずを食べながら、凍牙はそう言った。
 
 
次なんてあってたまるか。
 
 
もし今度頼みごとをしたときのお返しは、別の何かを考えようと決心した瞬間だった。
 
 
なんだかんだと言いながらも、凍牙はわたしの手作り弁当を完食した。
 
 
「まずいなら残せばいいのに」と言ってみたら、「食べられないレベルじゃない」と返された。
 
 
 
フォローのつもりか。
 
 
まあ、食材が残飯にならなかっただけ良しとした。
 
 
マヤと三國翔吾が仲直りしてからというもの、二人の関係は学校全体が徐々に受け入れるほうへと進んでいるようだった。
 
 
そうなると、マヤの周囲でくすぶっていた気まずい空気も自然と消えていく。
 
 
クラス内でも少しずつマヤを受け入れて普通に話す生徒が出始めてきた。
 
 
緩やかに、それでも確実に変わっている。
 
 
全てが良い方向に変化するとは考えていない。
 
 
これは面倒な見解が出てくるまでの、つかの間の休息といったところか。
 
 
 
「一度、皇龍のたまり場に来てみない?」
 
 
ある日の体育の授業終了後、着替えが済んで教室に帰っているときだった。
 
 
なんの脈絡もなく、思いついたようにマヤはわたしに言った。
 
 
「行かないよ」
 
 
マヤにしてみれば、皇龍というチームを知らなさすぎるわたしを思っての提案なのだろうが。
 
 
自分から自爆しに行くまねは遠慮したい。
 
 
 
「行ったところでわたしの何かが変わるってわけでもないだろうし、状況が悪化するだけだろうからね」
 
 
「状況って?」
 
 
「わたしがマヤの近くにいるのは、皇龍に取り入ろうとしているからだ。みたいな感じの意見が強くなる」
 
 
「そんなっ!」
 
 
「第三者の目から見ると、そう捉えられてもおかしくないって話だよ」
 
 
見方が変われば、考え方が違ってくるのは当然だ。
 
 
わたしにその気が全くなくても、いずれはうわさとして広まって行くことが予想される。
 
 
 
「――悪意を持たれてしまってるから、余計にね」
 
 
厄介ごとはまだ、完全には消え去ったわけではないのだから。
 
 
「……え?」
 
 
「ううん。ひとりごと」
 
 
面倒なうわさを流されるのが嫌なら、マヤからさっさと離れてしまうのが得策なんだろう。
 
 
だけど、それはわたし自身の望むところではない。
 
 
なんだかんだとあったけど、学校生活においてマヤといる時間は心地がいい。
 
 
 
あくまでそれはマヤ個人の話であって、三國翔吾や皇龍といったおまけはいらない。
 
少しでも平穏な生活を長く続けるためにも、彼らと関わるような真似はしてはいけない。
 
 
マヤが皇龍を大切に思っているなら、絶対に。
 
 
「わたしにとって、友達の知り合いも、友達の友達も、友達の恋人も、友達の家族も。直接知り合わない限りは他人だからね」
 
「……今のは、ひとりごと?」
 
 
「ううん。わたしの思うところを伝えただけ」
 
 
「その価値観からいくと、結衣にとっての翔吾は?」
 
 
「確認されるまでもなく他人だね」
 
 
先の一件で話題となった人だけど、結局わたしは三國翔吾がどんな顔をしているのかすら知らない。
 
 
出来ることなら分からずじまいで卒業したい。
 
 
 
「わたしは皇龍と関わりたくないし、今の状態が維持できるならそのままがいい。
下手に自分からこの均衡を崩すことはしたくないよ。
そこはマヤにも分かっておいてほしい」
 
 
「……うん」
 
 
 
腑に落ちない顔でも、マヤは頷いてくれた。
 
 
わたしにとってはどうでもいい組織でも、マヤにしてみれば大切な人たちなんだろう。
 
 
好きなものが認められないのは、辛い。
 
だけどごめん。わたしは自分のほうが大事だよ。
 
教室の入り口に差し掛かったところで、マヤが立ち止まる。
 
 
 
「もしも、もしもだけど、水口君が皇龍に入るようなことがあったら。
その時は結衣も水口君と一緒に――」
 
「問題です。前述を参考に次の問いに答えなさい。――わたしにとって、友達の仲間は?」
 
 
「…………他人です」
 
 
「分かればよろしい。さっきのは何もマヤに限って言ったことじゃないよ」
 
 
 
明らかに残念そうなマヤを置いて先に教室に入った。
 
 
凍牙だって例外にはならない。
 
彼が皇龍に入ろうが、わたしは何ひとつ変わらない。
 
 
凍牙の人間関係に口出しする権利をわたしが持っていないというのは、当然。逆もまた同じことなだけ。
 
 
お互いの利害が一致したときにだけ協力し合う。
 
わたしたちの関係は、今もこれからもそんな感じで続いていくのだろう。
 
 
 
 
たとえ困難に陥っても、凍牙がわたしを頼ってくることなんて――
 
 
きっとないと思うから。
 
 
 
 
 
続く 

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