モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 皇龍編上 After4

4.そこでは

 

 

 

  ☆  ☆  ☆

 

 
カウンター席しかない小さな喫茶店は、日が落ちるとともに営業が終わった。店主である男の元へ吉澤が訪ねたのは、それからのことだ。
 
 
昔馴染みとの遠慮のない会話は酒が入るとともにだんだんと職場の愚痴へと変わり、やがては共通の話題へとたどり着く。
 
 
吉澤の現在の最たる悩みといっていい、ひとりの生徒についてだ。
 
授業態度は真面目。
 
規則に従った制服の着こなし、化粧や頭髪といった点においても特別に注意する部分は見当たらない。
 
教員に対しては人を選ばず低姿勢で敬語を使う。ゆえに各教科の担当者にも受けはよい。
 
 
主張も少なく影が薄い。学校からしてみればさほど気にかける必要もない、普通の生徒。それが高瀬結衣の教員側からの評価だった。
 
 
その、生徒。
 
 
「随分とまあ分厚い猫の皮をかぶったもんだなあ」
 
 
高瀬結衣の担任教師、吉澤を前にして男はつまらなそうに肩をすくめた。
 
 
「楽しくねえだろそんなやつ」
 
 
「楽しくなくて結構だ。できればこのまま大人しく過ごしてもらいたいものだが……」
 
「ま、周りがあいつを刺激しない限りはなんとかなるんじゃねえの」
 
 
 
他人事のように気軽に言ってのける男に軽く殺意にも似た感情を抱きながら、吉澤は大ジョッキのビールをあおった。
 
 
荒々しくカウンターテーブルに置かれたジョッキが鈍い音を立てる。
 
 
 
「その様子だと、火種は既にくすぶってる、か」
 
 
人の苦労を、男は嬉しそうに笑う。
 
 
「俺は一回、起爆させて全部まっ平らにしてしまうってのもありだと思うぞ。皇龍含めて、この街もろとも。あいつにはそれだけの破壊力は十分に備わっていることだし」
 
 
「しゃれになんねえこと言ってんじゃねえ」
 
 
「残念。俺はいつでも大真面目なんだなーこれが」
 
 
 
吉澤の前に酒のつまみを出して、男は空のジョッキに自らのビールを注いだ。
 
 
「始めてしまったものは、責任もって終わらせるのが筋だ。いつまでもそのままにしておくわけにはいかないって、本当は分かってんだろ」
 
 
「それとこれとは話が別だ。それこそ何も関係のない高瀬を巻き込むわけにはいかねえだろ」
 
 
「ははは、相変わらずだねえヨッシーは」
 
 
 
普段生徒たちに見せることはあり得ない、吉澤の憤りに満ちた表情を前に男が苦笑する。
 
 
 
高瀬結衣が無関係な傍観者でいられるかどうかなど、結局のところは皇龍次第なのだが。
 
 
 
残念なことに街を守ろうとする皇龍が、あいつの存在を無視できるはずがないんだよなー。あいつらが有能ならばなおさら。
 
 
 
いち教師として彼女を心配する吉澤には悪いけど。と心の中で男は心にもない謝罪を形だけつぶやいた。
 
 
 
 
  ☆  ☆  ☆
 
 
 
 
モノトーンの黒猫 皇龍編下 に続く

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