モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 皇龍編上 After3

3.その後

 

 

 ☆   ☆   ☆

 

 

 
 
マヤちゃんに友達ができた。これについては、もはや喜ばしいこと以外のなにものでもない。
 
 
彼女が小学校、中学校と人間関係で苦労してきたのを知っているだけに、俺たちは口を挟まず見守ってあげたい。というのがひとつの望みでもあるのだが。
 
 
マヤちゃんと親しくする女子生徒――高瀬結衣は水口凍牙とも顔見知り、を通り越して友人となった。この事実は、さすがに無視するわけにはいかなかった。
 
 
念のためにと、皇龍として水口と繋がりが深い先輩幹部に報告したところ、その人物は興味津々で一連の話を聞いてくれた。
 
 
「ふーん。随分と面白い相関図が出来上がっちゃってるねー」
 
 
俺が説明を終えて開口一番、報告した相手は楽しそうに笑って他人事のようにそう言ってのけた。こっちからして見ればどっこも面白い要素なんてありませんけどねえ。
 
 
 
「ちなみに高瀬結衣については」
 
 
「知らないよーそんな名前。初めて聞いた」
 
 
街の要注意人物は大方把握しているこの人でも、やはり彼女についてはノーマークだったか。
 
 
「希望が含まれた予測になるのは自覚していますが、高瀬結衣と水口が結託してマヤちゃんを利用している、というのはないと思います。三國翔吾や皇龍といった単語に対して全く食いついては来ませんでしたし」
 
 
「そーちょーについてもスルーだったんだよね」
 
 
「ええ。それどころか総長の名前も顔も彼女は知らないみたいでしたよ」
 
 
ふーん、と彼は鼻を鳴らす。
 
 
水口は皇龍総長、日暮俊也とも面識がある。万が一、彼女と水口が結託したうえで皇龍に対して何かを企んでいるようなら、俺たちについての情報共有は行われているはずだ。
 
 
 
「少なくとも彼女がマヤちゃんを介して、三國翔吾や皇龍との接触を狙っているとは考えにくいでしょう。というか……」
 
「なになにどうしたの?」
 
「この前話した時に、ややこしいのとは関わりたくないって、言葉と態度ではっきりと訴えられました」
 
「あはは、なにそれ受ける―!」
 
 
 
笑い事じゃない。つーかこの人、彼女についてそこまで深刻に考えてないだろ。問題が起こったら全部あんたに押し付けるからな俺は。
 
 
 
「ごめんごめん。笑い事じゃないから俺に報告してきたんだよねーあっくんは」
 
 
 
なんて心のこもっていない謝罪だ。
 
 
ひとしきり笑い終えて先輩はにんまりと人の悪そうな顔で目を細める。
 
 
「ぶっちゃけ俺としては、その女の子がマヤちゃんを利用してたとしても、どーだっていいんだよねー。
 
どーせ見過ごせない事態になったら、皇龍が正式に出るまでもなく君としょーくんで片付けちゃうんでしょ?」
 
 
「まあ、そうなりますね」
 
 
「うんじゃあ、が聞いておかないといけないのはこっちだよね」
 
 
どっちだ。なんて野暮なことは言わない。ふざけていてもこの人も皇龍の幹部だ。
 
 
「もしものことが起こった場合、その子は皇龍の脅威になりそうなの? もっと言えば、君たち2人じゃいざというとき対処できないぐらいに、その子は危険だと判断しているってことのかな?」
 
 
プライドを刺激してくる言い方だが、ここでむきになって否定するのは得策でないと自分に言い聞かせる。
 
 
この人のことだ。否定したとたん「じゃあその子については君が頑張って対応してね!」の押しつけが待っている。ここは冷静にならなければ。
 
 
結衣ちゃんの底が見えない黒い瞳と、彼女と向き合った時に感じた言いようのない不気味さを思い出しながら首肯する。
 
 
 
「……はい」
 
 
「ええー、そこ肯定しちゃうんだ」
 
 
「すみませんね役立たずで」
 
 
 
俺だって女の子ひとりに振り回されている現実をできることなら認めたくはない。だけどあれが牙をむいたら手に負えないって確信があるんだよ。
 
根拠を言葉で示せないのがもどかしい。ここにきてあの時総長は結衣ちゃんを見てどう思ったのか、無性に知りたくなった。
 
 
「いやいやあっくんはいつもよくやってくれてるよー。ちなみに質問なんだけど、結衣ちゃんだっけ? その子と水口くんだったら、どっちの方が聞き分け良さそうな感じ?」
 
 
先輩の狙いは分かる。結衣ちゃんはともかくとして、水口は皇龍全体が共通して認識しているほどの注意人物だ。
 
ならば逆に結衣ちゃんをこちらが利用して、水口もろとも懐柔できないか、と目論んでいるのだろう。まあ俺もその方法を思いつかなかった訳じゃないけどさ。
 
 
「すみません。話が通じるのはだんっぜん水口の方です」
 
 
「えー、まじかー」
 
 
うなだれているように見えて、どこか先輩は楽しそうだ。
 
 
 
「お友達っていっても、どの程度までその子と水口くんが親しいかはきみにも把握しきれていない、と。
 
水口くんは、結衣ちゃんについてどう思ってるんだろーね」
 
 
 
なんにせよ面白い駒が見つかったと、先輩が呟く。
 
思惑を隠そうともしないあくどい笑みが、この人の性質の悪さを明瞭に表していた。
 
 
 
「ま、なんにせよそーちょーにも話は聞いておくよ。場合によっては俺から接触するかもしれないし」
 
 
会いに行く分には止めはしないが、俺はどうなっても知らない。
 
 
ひとまず、よく分からないがとんでもない子がいるということは報告できたので良しとする。
 
これで結衣ちゃんについては俺の手から離れた、というわけにはいかないのは十分すぎるほど分かっているが、先輩に報告できただけでも肩の力を抜くことができた。
 
マヤちゃんに対して多少の罪悪感を抱きもしたが、集団に属する者としてすべきことをしたのだと言い聞かせる。
 
 
結局は俺も、皇龍の人間なのだ。
 
 
  ☆  ☆  ☆
 
 
 
 
 
続く

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