モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 皇龍編上4‐4

4-4

 

 

  ☆  ☆  ☆

 

 
マヤちゃんに近づいた高瀬結衣という女子生徒を、俺は多少なりとも警戒していた。
 
 
家が近所のため幼少期から付き合いがある三國翔吾は、これまた近くに住んでいたひとつ年下の女の子、マヤちゃんが大好きだった。
 
 
子どものころからよく3人で遊んでいたが、俺と翔吾が小学校に上がる前にはもう、彼女は翔吾にとって特別な存在であったと記憶している。
 
 
あの子はいわば、翔吾の安定剤だ。
 
 
我儘で聞き分けのない、大人ですら手を焼く悪ガキは、なぜかマヤちゃんの言葉にだけは昔から素直に耳を傾けていた。
 
 
翔吾が荒れたらマヤちゃんに出動要請を掛けるのが、かつては俺たちの中では定番だった。
 
 
俺たちが中学2年になったころ、さすがに翔吾も今のままではいけないと感じたのだろう。
 
 
マヤちゃんに迷惑をかけないため、短気な性格を我慢強いものに矯正した。
 
 
マヤちゃんにすごいと思ってもらうため、勉強も努力し成績を伸ばした。
 
 
全てはマヤちゃんが中学3年になったとき、受験勉強を手伝うためだったのだとは後になって気付いたことだ。
 
 
果てにはマヤちゃんに褒めてもらうため、極度の人見知りのあいつは表面だけでも人当たりを良くしていった。
 
 
社交性の無さをマヤちゃんが心配しているのを知った故の、性格改造だと察したときはさすがに俺も唖然するほかなかった。
 
お前はそんなにマヤちゃんが好きか。
 
というよりも、そこまでしなくてもあの子だって昔からお前一筋だろう。
 
 
などと心の中で呆れはしたものの、ひたすらに努力する翔吾を見てるとなかなか言い出せなかったんだ。
 
そして、高校では翔吾が皇龍に入ったことも重なり、あいつの周囲の評価は右肩上がりとなった。
 
 
反面、そのころからマヤちゃんに対する周りの対応はどんどん冷たくなっていく。
 
 
それでもマヤちゃんは、皇龍で主要な地位に就いた翔吾を喜んだ。
 
 
そのまま俺たちは2年に進級し、マヤちゃんが同じ高校の1年に入学した。
 
 
マヤちゃんへの風当たりは強くなる一方と心配し、皇龍として何か対応すべきかと俺たちが話していた時だった。
 
 
俺と翔吾は高瀬結衣という少し変わったクラスメイトとマヤちゃんが仲良くなったことを知った。
 
 
どんな生徒か気になって、様子を見に行ったのがゴールデンウィーク前。
 
翔吾に代わって俺がこの役を引き受けたのは、やつだともしものときに暴力沙汰になり得るからだ。
 
 
あいつは本来女であっても容赦なく手が出る。
 
 
忘れ物を取りに来たマヤちゃんと結衣ちゃんが遭遇した時には焦ったが、おかげで面白い話が聞けた。
 
 
腹がよじれるほど面白かったのだが。それはもう。
 
 
同時に、彼女に対する疑念は膨らんだ。
 
 
――高瀬結衣が三國翔吾を知らないとは、本当にあり得るのか。
 
 
――知らないふりをする目的があるのでは?
 
疑いを持って声をかければ、今度は「路上で歌ってる人ですか」ときた。
 
 
あれはやばかった。知っていて真顔であそこまでしらを切れるなら、大した女だ。
 
 
俺もそれなりに有名なほうだとは自覚していたが、その点に関しても無反応だし。
 
マヤちゃんのために全てを完璧にこなそうとした翔吾の唯一の欠点が、音楽だった。
 
あれはもう、努力ではどうにもならないレベルだ。
 
だから、めったなことがない限り仲間内でも触れないそのネタをさらっと言ってのけた彼女は、ある意味称賛に値した。
 
最終的に、笑い転げる俺に彼女が返した反応は、非常ベルを押したのちの逃亡という予想外すぎるものだったが。
 
あれには久しぶりに、本気で焦った。
 
その後マヤちゃんの口から、彼女が最近この街に来たことを知って大いに納得した。
 
 
うん。知っててあの態度はさすがにしないよね。
 
だけど、彼女が皇龍を知ってしまったら何かが変わるかもしれないと、新たに危惧したのも事実だ。
 
皇龍という組織の影響力が、マヤちゃんと結衣ちゃんの仲を壊しかねないのではと心配したのだ。
 
まぁ蓋を開ければ、もうこの子なんなのという感想しか出てこないぐらいに、彼女は俺たちに無関心だったわけだが。
 
興味のないふりをしているのではと、疑い続けた自分を殴りたい。
 
 
自意識過剰で恥をかいたのは俺のほうだし。
 
 
念のために、結衣ちゃんのことは総長に報告していた。
 
 
そして今日、教室でマヤちゃんといる結衣ちゃんを初めて見た総長は俺に一言――。
 
 
「あれは違うだろ」
 
――とだけ言った。
 
なにがどう違うのかは、聞くタイミングがなかった。
 
総長がマヤちゃんを連れて出て行ってから、結衣ちゃんと二人で話したけど……。
 
いろいろ話して確信した。
 
ああ、この子は違うね。なんというか、根っこから違いすぎる。
 
言動はよめないし、思った通りには動いてくれないし。
 
どうやって育てたらこんな子が出来上がるのかちょっと不思議だ。
 
 
しかも水口凍牙と知り合いだ?
 
水口は皇龍の中で危険視する奴もいるぐらいの人物だぞ。
 
チームに属さないひとり者だが、強さに憧れている奴はそれなりにいる。
 
皇龍に牙をむいたら厄介となる男だ。
 
一応水口自身は皇龍の呼びかけには応えて、俺たちの敵じゃないことを示している。
 
だが、それがこの先どうなるかなんて、水口の気分次第といってもいい。
 
結衣ちゃんと水口――まさに異色の組み合わせだ。
 
どういうわけか、出会ってほしくない二人が知らないところですでに親睦を深めていた。これは……精神的なダメージがものすごい。
 
さらには俺が変に質問してしまったおかげで、知り合いから友達へとグレードが上がってしまったし。
 
そんな水口と結衣ちゃんは、落ち込んだ俺との話は終わったとばかりに2人で階段を下りていく。
 
ああ俺も早く帰って休みたい。
 
 
階段の上にいる俺には、そう大きな声で話していなくても、2人の会話は筒抜けだった。
 
 
「それで、結局あの人ってなんて名前なの?」
 
って、俺のこと?
 
「自分から名乗らなかったのか?」
 
 
「名無しの権兵衛って言ってた」
 
 
数分前にやらかした自分をしこたま殴りたくなった。
 
 
しかし水口は俺のことを知っているのだから問題ないか。
 
訂正して名前ぐらい結衣ちゃんにちゃんと伝えてくれるだろう。
 
 
「本人がそう名乗ったんなら、もうそれでいいんじゃねえの」
 
 
……訂正を……。
 
「そうだね」
 
 
「って、こらこらこらこらー!!」
 
全力で自己紹介をしに行ったのは、言うまでもない。
 
 
 
    ☆  ☆  ☆
 
 
 
 
 続く

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