モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 皇龍編上4‐1

4-1

 

 

   ☆  ☆  ☆

 
 
「聞いて気持ちのいい話はしないから、一緒にいてなんて言わない。
ただ、わたしが今日原田さんと話すこと、それを凍牙が聞いているということを知っておいてほしい。
全部終わったら報告するから、教室で待ってて」
 
昼休みの終わり、水口君のところから戻った結衣が言った。
 
そして結衣の頼みを聞き、翔吾を通して知り合った先輩に放課後人のいない教室を教えてもらう。
 
放課後すぐに水口君が来るから、彼にも問題の教室を伝えてほしいと結衣に言われた。
 
正直な気持ち、結衣と原田さんが話すのには不安があった。
 
結衣のことを信じていないわけじゃないけど、もしも、彼女が明日からわたしを原田さんのような目で見てきたら……。
 
 
不安と緊張の中、5限目が終わる。
 
 
6限目が始まる前、わたしの席に原田さんが来た。
 
見下した目と、勝ち誇った口調で彼女は告げる。
 
「高瀬さん、あたしらの味方だから」
 
どくんと、心臓がはねた。
 
そんなはずがないと言い聞かせても、鼓動は止まらない。
 
そのまま授業も耳に入らず、6限目が終わる。
 
 
ショートホームルームが終了してすぐ、結衣は原田さんと腕を組んで仲良く教室を出て行った。
 
――結衣はわたしのもの、とかじゃないのに。
 
友達と呼べるかも分からない、クラスの中だけという希薄な関係なのに――。
 
それなのに、わたしは原田さんに「結衣を取らないで」と叫びそうになった。
 
落ち着こうと大きく息を吐いて、水口君が来るのを待つため廊下に出た。
 
1組の教室のほうを見ると、すでに水口君は階段に向かって歩いてきていた。
 
手にはスマホを持って、常に画面を見ている。
 
彼のことだから、こちらには気付いているはず。だけど水口君はわたしに見向きもせず、目の前を通り過ぎた。
 
少し迷ったけど、わたしも階段を下りる水口君の後を追うことにした。
 
結衣には待っててと言われたけど、報告するというのならわたしがその場にいても問題はないはず。
 
 
悪口にはもう慣れてた。親しくない人に何を言われても平気。
 
だけど、翔吾を見るわたしの目は他の人と違うって、それが貴重なものだって言ってくれた結衣に嫌われるのが、どうしようもなく怖かった。
 
 
意を決して踏み込んだ第二科学室で、先に入ったはずの水口君を探す。
 
姿がなかった彼は少ししてから呆れた様子で準備室に招いてくれた。
 
準備室は教室の3分の1もないほど小さな部屋。
 
壁には科学部の賞状と、集合写真が飾られていた。
 
「結衣は来るなと言ってなかったか?」
 
言いながらも水口君は相変わらず、スマホをいじっている。
 
「わたしにだって、聞く権利はあるはずよ」
 
強気に発言したけれど、水口君にこんなこと言っていいのかしら……。
 
 
水口君は皇龍の人ではない。
 
だけど喧嘩も強く機転が利くため、よく皇龍の活動に幹部の人たちが引っ張って来る。
 
衿足を少し伸ばした薄茶の髪、人を寄せ付けない鋭利な目。
 
薄い唇は常に下を向いていて、慣れ合いを好まない人だと聞いているのに。
 
そんな人と友達という結衣は、やっぱりよく分からない。
 
「……好きにすればいい。間違っても音を立ててあいつのやることを邪魔するな。あと……」
 
 
まだ、何かあるのかしら。
 
「どん引きしても、俺は知らない」
 
……それは、リアクションに非常に困る。
 
なにが起こるのかと聞こうとしたら、隣の部屋からドアの開く音がした。
 
慌てて息をひそめる。
 
声が聞こえるように、準備室のドアは少し開いている。
 
だからこちらも、気をつけないといけない。
 
 
心臓の音がうるさい。
 
 
そんなわたしに構うはずもなく、結衣と原田さんはしゃべりだした。
 
 
 
焦る原田さんを、結衣が嘲笑って弄ぶ。
 
 
誘導尋問というものを、生まれて初めて聞いた。
 
原田さんがわたしをよく思ってないのは今更だし、彼女の言葉に傷つくよりも。
 
はっきり言って、衝撃なまでに結衣に対して慄いた。
 
結衣は一体何者なの。
 
口がやたらと強いけど、どこでそんなに鍛えたのよ。
 
本音の中に隠れた矛盾を指摘されて、壁の向こうで原田さんが憤っている。
 
こんな人の言葉に流されて翔吾と分かれたんだと思うと、自分がバカバカしく思えて仕方がなかった。
 
結衣の話に合わせて、水口君がドアの隙間から手だけを出す。
 
すごく息がぴったりね。
 
最後に舌打ちした原田さんが足音を荒くしながら教室を出ていく音がした。
 
「もういいよ。ありがとう」
 
結衣の声がする。
 
水口君に続いて準備室から出た。
 
「来てたんだ」
 
驚いた様子もなく、結衣がわたしに言う。
 
「うん。心配になって」
 
「そう。あんまり楽しい話じゃなかったろうに」
 
「……うん。でも、安心したから」
 
結衣が味方でいてくれたっことが、何より嬉しくて、心強かった。
 
「ならいいや」
 
ふっと無表情がほころんで、結衣が微笑む。
 
自然に笑った時の彼女は、とてもかわいいと思う。
 
ちなみに結衣のよくする確信的な笑みは、ちょっと怖い。
 
『ええっと、なんだったっけ』
 
『だーかーらっ、津月さんのこと!
高瀬さんボケ過ぎだよ!』
 
つい先ほど耳にしたやり取りが再生され、わたしも結衣も水口君の手元に注目した。
 
「遠い分鮮明ではないが、何を言ってるのかは分かるな」
 
どうやら一連の会話をスマホに録音していたらしい。抜かりがない。
 
「何それ、携帯電話?」
 
「いや、スマートフォン」
 
「ふうん。ボイスレコーダー付きなの?」
 
「アプリで取ったんだ。っつうかお前、携帯持ってないのか?」
 
そういえば、いまだに結衣とアドレスを交換してないことに気付いた。
 
だけど、この機会に連絡先を交換なんて流れに沿うはずもなく。
 
「持ってないよ。電話とか」
 
結衣を普通の枠に押さえてはいけないと改めて実感した。
 
それに、家庭の事情とかで持ちたくても持てないのかもしれないし……。
 
「やむを得ずか?」
 
「ううん。自主的に」
 
遠慮のかけらもなく質問する水口君もだけど、結衣の答えもどうかと思う。
 
「緊急連絡先は?」
 
「実家」
 
「お前、情報社会の前線で生きる気ないだろ」
 
口を挟む隙間はないけど、水口君にものすごく賛同してしまった。
 
 
あれ? でも……。
 
少し前に結衣とした会話を思い出した。
 
「結衣って、新聞取ってないって言ってなかった?」
 
「取ってないね」
 
「……テレビも………」
 
「住んでる所には置いてないかな」
 
……何でもないように言ってくるけど、情報の仕入れ先がないじゃないの。
 
「パソコンとか、インターネットとか……」
 
「しないし、持ってないよ」
 
「……ラジオ、は?」
 
「災害時の避難袋に入ってた気がするけど」
 
つまりは使ってないってことね。
 
「あ、電池用意するの忘れてる」
 
………………。
 
 
なんというか、これは……。
 
「リアルな陸の孤島、人間バージョンね……」
 
「ライフラインは凍牙によろしく」
 
「そんな都会のサバイバルに俺を巻き込むな」
 
 
 
本当に、結衣と水口君は仲良しね。
 
 
 
  ☆  ☆  ☆
 
 
 
 
 続く

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