モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 皇龍編上2‐4

2-4

 

 

なんだかんだで大型連休はバイトしかしなかった。
 
職場の同じバイトの人たちは旅行や遊びにまとまった休みが欲しかったらしく、暇なわたしの存在はありがたかったようだ。
 
休日を連日フルタイムで働けたので、次の給料日が少しだけ楽しみだった。
 
連休中日の平日をさぼった生徒には、吉澤先生から課題が出た。
 
反省文と冊子のような数学問題集を渡した生徒に、先生は朝のホームルームにて「反省文は今週中。課題は中間テストまでに提出しろ」と告げた。
 
リアルにこなせる猶予を与えるところが逆に怖い。
 
理不尽な無茶振りじゃないので、提出しなかったら成績のがた落ちは免れないとのことだった。
 
社会人と紛れて9連休を過ごした凍牙とも、昼休み久しぶりに顔を合わせた。
 
そしてその時、久しぶり、と思えるほどにわたしは凍牙を意識しているのだと改めて知った。
 
中学校時代のクラスメイトという認識はあったけど、それは学校側が決定した集合体であってわたしたちが意図して作ったものではない。
 
同じ空間で同じ時間を共有することにより、顔なじみになって、意気投合して友達になっていくこともあるかもしれない。
 
だけど同年代とういうだけで見ず知らずの人間が成績や学校側の思惑で選別されたクラス編成に対して「今日からここのみんなは友達ですよ」と教師に言われたところで、はい分かりましたと素直に納得できるほど素直でできた人間じゃなのは自覚している。
 
凍牙はかつてのクラスメイト。そしてさぼり仲間であったわけだが、これについては野良猫が他の猫と縄張りを共有しているような感じだった。
 
「友達」という言葉が、わたしは苦手だったりする。
 
定義があいまいで、どこからどこまでが「友達」に当てはまるのか、人の価値観によって個人差がありすぎてはっきりしない。
 
友達だから、友達なのに、友達だったら……。
 
そんな会話を耳にするたび、「友達」は相手を縛る言葉にもなり得るのだと思ってしまう。
 
そのためわたしは凍牙を「気の合う知人」と位置づけたまま、「友達」と呼んだことは一度もない。
 
本当は気心の知れた友人だと思いたいし、そう言いたい。
 
だけどわたしが思う「友達」と、凍牙の考える「友達」が違っていたら。
 
凍牙との思考のずれを確認するのはひどく今更な気がして、この心地いい空気が壊れる可能性を思うと踏み込むことができないでいる。
 
 
「――連休中に、武藤に会った」
 
友達について、思考の海にどっぷり浸かっているときだった。
 
前に座る凍牙はわたしを振り返ることなくそう言った。
 
――武藤。
 
その名字に、わたしは一気に現実へと引き戻された。
 
「……へえ」
 
冷静になろうとして失敗した。
 
いつものわたしより、少し声が低い。
 
武藤 春樹は、中学の時のわたしの――数少ない「友達」のひとりだ。
 
「向こうの街にいく用事があってな。そこで、ばったりだ。
――探していたぞ、お前のこと」
 
凍牙が上の段にいるわたしを見上げた。
 
視線がぶつかる。
 
今のわたしはきっと、情けない顔をしているのだろう。
 
「姿を見ていないかと聞かれた。知らないと答えておいたが、よかったか?」
 
「いいよ。ありがとう」
 
なぜわたしを探すのか、明確な理由は分からない。
 
だけどもしも、それが決別を言い渡すためだったら。
 
「もうお前は仲間じゃないとか、言われるのかなぁ」
 
それだけのことをした自覚はある。
 
人の心を乱して、情報をかき回した。
 
気まずい空気に耐えられなくて、やけになっていろんなものを壊した。
 
信頼、プライド、関係性……。
 
長い時間をかけて積み上げたものを崩すのは、余りにも簡単だった。
 
「憎んでいるようには見えなかったが。どちらかというと、心配していた」
 
「それはないよ。それに、万が一みんながわたしを許しても、わたしはみんなに会えない」
 
時間によって怒りが風化されただけならなおさらに。
 
「……会っちゃ、いけないよ」
 
再会したら、きっとまた繰り返す。
 
「今はまだ会えない。でも、いつかちゃんと、わたしから伝えないといけない。わたしはみんなのこと、今でも、これからもずっと好きだって」
 
幸せになってほしい。この気持ちは本当。
 
だから、不穏分子になり果てたわたしは、みんなの――特にあの二人の傍にはいられない。
 
「いつかってのは、具体的に決まっているのか。俺にはお前が逃げているようにしか思えないが」
 
「決まってるよ」
 
逃げていては、一生みんなに会えない。
 
ぎくしゃくしたまま終わるには、わたしの中でみんなの存在は大きすぎる。
 
「春樹と綾音が結婚して、子供が生まれたときには必ず」
 
「……長期計画にも程があるぞ」
 
 
だって、仕方がないよ。
 
それぐらいじゃないと、わたしが安心できない。
 
 
 
 
 
 
続く

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