モノトーンの黒猫

モノトーンの黒猫 皇龍編上2‐3

2-3

 

 

――大型連休が始まる。
 
などと意気込んではみたものの、蓋を開ければただのバイト三昧の3連休だった。
 
今年のゴールデンウィークは、土日と月曜の祝日が続いて三日休んで、二日平日。
そしてまた四日の休日と飛び石になっている。
 
会社勤めの大人だったら、平日二日を休んで9連休を楽しむ人もいるのだろうが、生憎のことわたしは有給休暇もない学生だ。
 
ゴールデンウィーク中日の平日でも、ちゃんとまじめに通学した。
 
朝のショートホームルーム時、クラス内では空いている席が3つあった。
 
大人に混ざって9連休を満喫しようとしている、チャレンジャーな生徒が3人もいるのが驚きだ。
 
なんせこのクラスは。
 
「今いない奴の中で、体調不良の連絡を聞いてるのはいるか?」
 
みんなのあこがれ、恐怖の吉澤先生のクラスだよ。
 
不機嫌な表情を隠そうともしない先生の問いに、クラスの誰もがなにも言わない。
 
「……この俺が出勤しているのにさぼるやつがいるとはいい度胸だ」
 
ぽつりと呟かれたひとりごとは、まじめに登校してきた生徒を凍りつかせた。
 
学校をさぼった3人は、楽しみの代価を休み明けに支払うことになりそうだ。
 
説教か、課題か。
 
あの先生はめんどくさがりみたいだし、おそらく大量の課題になるだろうと推理する。
 
なんにせよ、吉澤先生の威光が慣れによって徐々にクラス内で効かなくなっているのは少しだけまずい気がする。
 
早まった生徒が出なければいいのだけれど。
 
楽しくない未来しか想像できないうちのクラスについてはひとまず置いておくとして。ここ数日でいいこともあった。
 
マヤとの関係は、休み前に比べたら見違えるほど親しくなったように思える。
 
かといって常に一緒にいるとかではなく、わたしたちの間に流れる空気が緩くなった、という感じでだ。
 
触れてはいけないところを探るようにしていたおしゃべりが、遠慮のないものへと変わった。
 
少しだけ心の距離が縮まったマヤは、意外に毒舌でツッコミ気質だった。
 
そんなマヤの一面を知ったからといって、わたしたちの二人でいる時間が長くなることもない。
 
トイレに一緒に付いていくなんて論外だし、やっぱりお昼は別々だ。
 
 
その日、もはやお昼の定番と化した第二体育館の非常階段に凍牙の姿はなかった。
 
どうやら凍牙も9連休を楽しむくちらしい。予想はしていたさ。
 
早々に弁当を食べ終えたわたしは、非常階段の踊り場に寝転んだ。
 
背中のコンクリートが冷たくて気持ちがいい。
 
建物と階段の壁がちょうど日陰になって、風の通りも申し分ない。
ここなら夏も快適に過ごせそうだ。
 
 
次の日も、やはり凍牙には会わなかった。
 
ひとりで階段でお昼を食べて、昨日と同様に踊り場で寝転ぶ。
 
快晴の空には飛行機が飛んでいて、飛行機雲は尾を引くことなくすぐに消えていった。
 
明日からの連休後半も、行楽日和になりそうだ。
 
バイト先――駅近くのバーガーショップも忙しくなるに違いない。
 
踊り場を抜ける風が気持ちいい。
 
目を閉じて、木々がざわめく音を聞く。
 
わたしの昼休みの記憶は、そこで途絶えた。
 
 
遠くからした予鈴の音で目が覚めて、校舎へと急ぐ。
 
寝落ちしなかった自分に拍手を送りたい。
 
5限目は英語、6限目は数学と、時間割通りに授業が続く。
 
放課後になればマヤにあいさつをしてバイトに行く。もはや定番となった運びだ。
 
ただ、今日はいつもと違って、妙に胸がざわついた。
 
なんとなく、本当に些細だけれど。小さな出来事には変化があっても大きな流れはいつも通りだった、変哲のない毎日の軌道が少しだけ逸れてしまうような。
 
探るように周囲に注意を向けつつ教室出る。教壇の近くにいた原田さんたちのグループが目に付いた。
 
離れているためなにを話しているのかは聞こえない。
 
なのに得意気に話す原田さんを見ていると、喉の奥が異物でつかえるような錯覚をおぼえた。
 
杞憂であってほしいと思いつつも、なかば諦めに近い気持ちを抱き教室を後にする。
 
言葉にできる根拠はない。でもこれは、何度となく味わってきた前兆だ。
 
 
――クラスが変わる。
 
そんな予感がした。
 
 
 
 
 続く

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